あんたのオモチャ

□春の雨
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「…っ」

 俺は眉を顰め康介の体を突き飛ばし靴脱ぎ家の中へと入ると背後で笑う康介。ゲイでもないくせにからかって腹が立つ。

「シャワーを浴びてから服着ろよ」

「……」

 返事を返さず寝室に行くと濡れた服を脱ぎ捨てクローゼットから部屋着を出し着込む。リビングへ戻ると言うことを聞かなかった俺を見て康介は溜息を吐く姿が見えた。

「あのなぁ、風邪ひいたらどうするんだよ。気に入らないなら…」

「……」

 暫くの沈黙。康介がはっと何かに気づき声を出した。

「―…あ、今のはナシ」

 康介は口元に手を覆い隠し言葉を飲んではキッチンに俺の持って帰ってきた買い物袋を持って行く。
先の言葉は知っている「気に入らないなら出て行け」それを言われると俺の行く場所がなくなるのを知って言わない康介は優しくて狡い。嫌ならば捨ててくれて構わないのに優しくするものだから変に期待してしまう時がある。

「飯…オムライスの材料買ったのだけどいい?」

 濁る空気を変えるべく違う話を振る。すると、安堵したような表情を浮かべた康介がカウンターキッチンから顔を出す。屈託ない表情は先程、俺に悪戯した者とは思えないほどだ。切り替えの早い奴で助かる様なそうでもないような複雑に思う。

「ああ、俺も手伝うよ」

「場所が狭くなるからいい」
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