短 編 集

□観覧車
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 10月の心地よい日和に俺と優弥は天高く回る観覧車に乗っていた。男2人向かい合って無言で何が楽しい?俺もそうだが優弥の柳眉がつり上がっている。

「あーあ…女がいたら楽しかったんだろうなぁ」

「仕方ないだろ、一人は熱出して、もう一人は一人では行きにくいってパスしたのだから」

 合コンで知り合った女子にドタキャンされ、せっかくだから絶叫マシーンぐらい乗らなきゃ損だろうと遊園地に入ったはいいが、一番のウリだった絶叫マシーンは前日の定休日が天候が悪く繰越て整備点検ことになった為と運行中止になっていた。乗り物チケットを買った後で気づくなんて不覚。
 そのチケットを消耗せねばと乗りたくもない観覧車に乗ることになった。観覧車を待つときに見てたのだけど客は殆どが恋人と思われるカップルばかりで俺たちはやり場のない虚しさでいっぱいだった。

「お、下のゴンドラのカップルいちゃついてる」

「どれどれ…」

 ゴンドラがてっぺんに近づいてきた頃、外を眺めていた優弥がよそのゴンドラでカップルがいちゃついてたのを発見したので、俺も興味本位で優弥の座る椅子の方に移動し隣のゴンドラに目をやった。
 俺が移動した事によりゴンドラがぐらりと揺れる。俺は気付かなかったが優弥は体を強ばらせ狼狽した顔で一瞬固まった。

「あ、馬鹿!移動したら揺れるだろ!」

「なんだよ。あ、さてはお前高いところが苦手だろ?」

 俺の指摘に優弥は顔を赤らめる。そして、自分がどんな顔をしたのか気づいたらしく手で口元を押さえ隠した。

「べ、別に怖くなんかねーよ」

「ホントか?なら、下を見てみろよ」

 俺は動揺する優弥が可愛く思えついつい意地悪な事を言ってみた。更に動揺する優弥。

(なんだ、こいつメチャ可愛いじゃねぇか)

 ドクドクドク…ゴンドラから見える地上の人たちはありんこの様で天空の城に行けるのじゃないかと思う期待と、落ちたらまず助からなないなと思う恐怖に似た胸の高鳴りを目の前に居る優弥に感じる。
 気の迷い。こう言ってしまったら簡単なのだけど、俺はコンマ一秒の短くて長い時間で優弥との連んだ楽しい時間を走馬灯の様に思っては、今目の前に居る優弥が愛おしく思え潤む瞳を間近で見てみたいと顔を近づけ、手の隙間から見える薄い唇に吸い込まれそうになり、気が付けばキスをしていた。

「お、おい…んっ…ふ」

 優弥の漏れる声に心は擽られ、啄む様なキスを何度も繰り返した。
 そして、唇を離すとそこにはうっとり目を細めた優弥の顔が…。

「なに…してんだよ」

「なにって…キス?」

 尋ねられると俺は首を傾げそう答える。優弥は「はぁ!?」とすっとんきょな声を出しては俺を突き飛ばす。それでゴンドラが大きく揺れると優弥は驚き硬直する。俺は優弥の手を掴み引き寄せ抱きしめてやった。

「…っ」

「下に近づくまで、こうしててやんよ」

 優弥は顔を真っ赤にさせ小さく頷いた。

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