サヨナラは言わないよ
□サヨナラは言わないよ
1ページ/1ページ
「勝生勇利選手去年の雪辱を晴らしましたね!おめでとうございます!」
グランプリファイナルの金メダルを持って帰国するや否やリポーターが押し寄せ、おめでとうと僕とヴィクトルを取り囲む。去年の惨めに帰国した時とは大違いだ。
「勇利疲れただろ家に帰ろう」
右手の薬指にペアの金のリングを嵌めてくれているヴィクトル。彼との生活がごく当たり前になっている…彼に彼の時間を返して上げなくてはいけない…分かっている…分かって居るんだ。
「僕これからTV取材を受けなきゃヴィクトル、先に帰っていて?」
「ああ…無理しないでね」
僕の右手を取ってはリングにキスをする。こんな日常がいつまでも続いたらいいのに…。
ヴィクトルとは空港で別れ僕はTV局へと向った。
特番として取り上げられる祝福のカメラとフラッシュ。僕は緊張しない様に眼鏡を外しボヤけた視界の中でインタビューに答える。きっとヴィクトルは僕の家族と一緒にこれを見ていてくれている筈だ。
「来年も頑張ってくれるでしょう?」
リポーターが当たり前の様に僕に尋ねた。
僕は俯き首を横に振る。すると、どよめきの声がザワザワとこだまする。
「今シーズンで引退を考えています。この金メダルは良き思い出となるでしょう」
眩いフラッシュ。リポーターの声も聞き取れず、僕は応援してくれた皆にお辞儀をしその場を後にした。
長谷津の海を横目に全力疾走。会いたいあの人の姿を思い浮かべ…。
「ワンワン!」
「マッカチン!……ヴィクトル」
「お疲れさま勇利」
両手を広げ待ち受けるヴィクトル。僕は迷わずに彼の体に飛び込んだ。
「何となく…何となく気付いていたよ」
「ごめん。ヴィクトル…勝手にコーチを頼んでおいて、こんな形で別れ…」
「サヨナラは言わないよ。このリングは一生の宝物で勇利と繋がっている」
「うん…」
僕は首に掛けていた金メダルをヴィクトルの首に掛ける。驚くヴィクトルに微笑み返す。
「こっちが本当の誕生日プレゼント。今までありがとうヴィクトル大好きだよ」
「俺もだよ勇利」
太陽が長谷津の海に沈む…僕とヴィクトルは赤やけの夕日に包まれキスをした。
ー END ー