バッテリー

□渦巻く感情
1ページ/1ページ


俺は野球から目を背けたくて、ずっと勉強していた。勉強をしていれば、野球から離れられる。ずっとそう思っていた。

その電話が掛かって来るまでは。

もう0時を回ろうとしていた。俺はそろそろ寝ようと思い、勉強を止めた。そんな時だった。携帯が突然鳴ったのだ。誰やこんな時間に……。と思いながら、携帯を開いた。するとそこに映っていた名前は、消した筈の海音寺からだった。いや、正確に言うと、消し忘れた名前。だから、出ずに電源を切ろうと思った。けれど、俺は出てしまった。
「………何のようや、海音寺」
『あ、瑞垣。出てくれたんやな』
「………で?用件は?」
『……門脇から相談を受けてな。なぁ、ほんまに野球、やらんのか?』
俺はその単語を聞いた瞬間、来ていた眠気が去ってしまった。
「………前にも言うたやろ。俺は野球を止めたんや」
『……それは、原田のせいか?』
「誰のせいでもあらん。俺自身の決断じゃ」
『………けどそれで、門脇は、納得したんか?』
「しとらんから、お前にそうやって言ったりしとるんじゃろ」
『………そうじゃけど』
「もう切るぞ。お前、今何時やと思ってる?0時やぞ、0時。もう日付も変わってる。いい加減、寝かせてくれや」
『………瑞垣。あれだけ熱入れて来た野球を、こうもあっさりと捨てられる理由は何や?野球も、勉強せんと上達しないもんやろ?お前は、ついこの間までそれを―――』
俺はそこで電話を切った。そして電源も切った。携帯を壁に向かって投げる。別に壊れても不便では無い。と言うより、今のは八つ当たりだ。
何が、野球も勉強して上達する、や。あれは努力と言って……。って、努力と勉強は、同じもんか。絵が上手くなるのも、毎日続けると言う、努力がそこにあっての事。勉強もそうや。毎日新しい事を覚えたり、過去の事を覚えなおしたりと。努力しないと出来ない事である。
そんな事、分かってる。……けれど、そう言ったもんは、根気強い我慢や忍耐力がないと出来ん事や。今の俺に、野球を続けられる忍耐力など、有りはしない。
別に、原田にあったからではない。ただ単に……年だろう。ほら、良く聞くやろ?野球は中学まで。とかな。本気でプロを目指す奴以外、野球をずっとやるだなんて、有り得ん事なんや。なのに海音寺の野郎は、それを分かって無くて……。そんなアイツが、俺は許せなかった。
俺の何を知っていて、そんな口を叩ける。ほんの少し、傍に居ったからか?馬鹿野郎。分かってたまるか。俺の事を理解してええのは、俺だけや。秀吾にかて、許した覚えはあらん。
くそっ、眠れなくなったじゃねぇか……。変な事、言うんじゃねぇ。俺は………もう縁を切ったんや。ほっといてくれ。

それなのに、俺の胸が苦しいのは、何でや。
まるで、自分に嘘を付き続けて、それが今頃になって崩壊して行って。それを目の当たりにしている様な、そんな感じや。





「……俺、あかん事言うたかな。瑞垣のやつ、分かりやすいから、嫌な事を言われると直ぐに電話を切るからなぁ……。………けど俺、諦めた訳じゃないぞ。絶対、お前をまた、グラウンドに立たせて見せるからな」














END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ