バッテリー

□バイト
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それを知ったのは、俊のおかんに会った時だった。
「あの子、野球部の無い高校に行ってるじゃない?部活もやっておらんで、バイトばっかりで……。秀吾ちゃんからも、何か言ってやってくんない?」
………は?あの俊がバイトって?俺が聞いてたのは、毎日部活で忙しいから、お前の相手をしてられんって……。俊自らそう言ってたんじゃけど。つまり、あいつは俺に嘘を付いてた訳か。やられた。けど、あの俊がバイト何て……。まぁ、もう高校生やし、やらない方が珍しいと言うか……。
けど、俺にそんな嘘までついて、あいつは何がしたいんや。だから俺は俊のおかんに俊のバイト先を聞いて、押しかける事にした。



「いらっしゃいませー」
ここが俊のコンビニ。コンビニってなんやかんだ忙しそうなのに、良うやるな。俺は店員さんに俊について聞いた。すると呼んで来ると言って、裏へと入って行った。

「………何のようや。バイト先にまで来やがって。つか、何でお前が俺のバイト先知ってんのや」
俊を呼び出してもらって。取り敢えず外に出た。
「俺、まだまだ仕事があるから、忙しいんですー。終わってからにしてくれよ」
「俊。何で嘘までつくんや」
「………何だって良いやろ」
「嫌じゃ。理由聞くまで帰らん。俊、何でや」
「……………」
ちっと舌打ちをする俊。あの癖やなくて、本当の舌打ちやった。
「別に、バイト先に来られるのが嫌だっただけじゃ」
「だからって、こんな一駅も離れた所に………」
「そうした方が、見慣れてる連中が来なくて安心じゃと思ったからじゃよ」
俺はもう戻るぜと、俊は店の中に入って行った。
一人残された俺は、煙草に手が行っていた。ここのエリアは吸って良いから、俺は煙草に火を付けた。
ふぅ、と一息付く。そんな時、店内からこんな会話が聞こえて来た。
「良かったの?瑞垣君」
「あっはい。大丈夫です。すみません。仕事に戻ります」
良くねえっての。くそ。こうなったら、終わる時にまた来てやる。どうせここに書いてあるシフト時間だろうし。求人求むのポスターな。

それで、俊のバイトが終わる時間帯に、俺はまた来た。出入口で待っていると、俊がげっと言う顔で出て来た。
「おま……。何なんや」
「ちゃんと理由を話せ」
「………さっき言った通りじゃろ」
「ふざけんな」
俺は俊に掴みかかっていた。
「お前、いつも曖昧な答えで、それでええと思ってるんか?」
「……あぁ」
「っ、この」
本気で殴り掛かろうとした時、門脇!と誰かに呼ばれた。
「……お前、久々に会ったと思ったら、何やっとるんじゃ」
「唐木……」
そこには唐木が居て。殴り掛かろうとしていた俺を止めていた。
「喧嘩は反対。放したれ」
「………」
俺は渋々その手を放す。
「助かったわ、唐木」
「おう」
「………お前は、何しに来たんだ」
俺は唐木を睨んだ。何しにこんな離れた所に来たんだ。俊に用なのか?」
「俺か?おミズにバイト終わったら飲もうって誘われて。これからカラオケ」
「高校生のくせに……」
俺は呆れて言葉も出なかった。そんな時、瑞垣が俺の腕を引っ張っていた。
「行くぞ」
「ちょっ、待て、俊」
「良いから、付いて来い。聞きたい事、あるんやろ?」
「………」
俺は渋々二人について行った。



そしてカラオケに付いて。唐木は早速歌っていた。
「………お前に嘘を付いた理由はな。知られたくなかったんや」
「バイトしてるって事をか?」
「おう。………だからかっこ付けて、部活って、嘘付いてたんや」
「けどお前、何部までは言わなかったよな」
「………そうじゃったな」
俊は煙草を吸っていて。俺と目を合わせんかった。
「……もう、お前に嘘は付かんよ」
「俊………」
「悪かった」
こんな簡単に折れる俊なんて、俊じゃないみたいだ。夢であってほしいと願った自分までおる。けどそこは現実で。俺はため息を零していた。
「ほら、お前も楽しめや」
「………俊。お前……」
俺はそこまで言いかけたが、言葉が出て来なかった。俊は、うん?と言う感じだったが、なんでもないって言ったら、そうかと言って来た。

俺の知らない俊がそこに居る様な感じで、とても居心地が悪かった。親に何も言ってねえし、帰ると言ったらそうかと言われてしまった。

そして店を出て。俺は足早に駅に向かった。まだ電車あるよな。そんな事を思いながら。

俊、俺、お前が分からん。何でそうなったんや。教えてくれ。















END

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