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□なんやかんだ言っても大切な人
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豪と喧嘩した。まただ。ここの所、良く喧嘩をする。決まって俺が悪い、らしい。俺にはその自覚がない。だって、悪いのは豪だ。俺は何も悪くない。正論を、言ってるだけだ。けどその正論が正論じゃないらしいから、もう何が何だか分からない。
俺は家に着くなり、後ろから青波に抱き着かれた。
「兄ちゃん……豪ちゃんと喧嘩したん?」
何でうちの弟は、何でも分かるんだろう。怖いぐらいだ。いや、豪と喧嘩した事だけか、こんなに鋭いのは。俺はそうだよ、と返した。青波を引き離し、家に入る。するとそこには出掛けるのか、ちょうど母さんと遭遇した。
「あら、巧…に青波。おかえりなさい」
「ただいま。ママ、これから出掛けるん?」
「ええ、ちょっとね。巧、青波をお願いね」
「………はいはい」
今日は、この調子だと豪と野球の練習が出来ないから、丁度良いかもしれない。けど、青波は質問ばっかして来るから、俺は好きじゃない。その質問の殆どが下らなくて。答えるのが面倒。だからこいつとは、あまり一緒にいたくない。だからランニングに行こうと思った。
「青波。俺、走って来るから。じいちゃんの所にでも居ろよ」
「うん」
………珍しくあっさりした答え方だな。いつもなら、ついて行くとか言って、聞かないのに。まぁ良いか。俺は部屋に戻って着替えて、家を出た。
丁度その時、吉貞と鉢合わせをした。
「よっ」
「………何か用か」
「用があるから来たんじゃろうが。ってか、原田、お前今からどっか行くの?」
「走って来る」
「あー………」
本当に何しに来たんだ、こいつは。俺の邪魔をしに来たのか?だったらこの前のように、と思ったが、あの時はベッドがあったから出来た事で。ここは外で、地面が待っている。止めておくか。
「………俺に用だったのか?」
「ああ。永倉、知らんか?」
「豪?………どう言う事だよ」
俺は何も考えず、吉貞の目の前に立った。が、それが吉貞からしたら怖く、一歩下がっていた。
「原田、怖いって。もうちょい離れてくれ」
「………」
俺はむすっとしながら、一歩下がった。
「そう、それでええ。………何かな、永倉が家に帰って居らんって、永倉のお母様からお電話があったのよ。原田なら知ってるかもとか俺は言って、ここに来た訳や」
「勝手に俺が知ってるとか、決めつけんなよ。知らないよ」
何だアイツ。拗ねたのか?それとも怒って?どの道、夜になれば帰って来るだろう。明日も学校がある訳だし。
俺は吉貞にそう言い、豪の母親にもそう言うように言った。



けれど豪は夜になっても帰って来ていないらしい。俺は探して来るように、沢口だの東谷だのに言われた。何で俺なんだよと言ったら、豪の事を一番分かっているのはお前だろ?と言われてしまった。否定は出来なかったから、俺は探しに行ってやった。ったく、世話の掛かる捕手だよ。


取り敢えず、いつもの神社や練習場所、思い当たる場所には全部向かった。けれど何処にも居なくて。まさかと思って学校の方に向かってみた。

学校の校門の門の下に座ってる豪を、俺は見つけた。
「豪………」
豪は俺を見るなり、立ち上がり、こちらに近付いて来た。
「すまん」
「………んな事良いから、帰ろう。皆、心配してる」
「嫌じゃ」
「お前………」
俺は走り過ぎて息切れが激しく、その場でしゃがみ込んだ。こんなに走ったのは、青波が居なくなった時以来かもしれない。
「お前に、当たり過ぎた。本当にすまん……」
「……………悪いのは、俺の方だよ」
「巧……」
ちょっと、カッとなったんだ。本当に、下らない理由で。だから、豪が謝る必要も、こうなる必要もないのに。何でこいつはいつもこうなんだろう。
俺はやっと呼吸が整ったので、真っ直ぐに立ち、豪を見つめた。
「………酷い汗じゃな」
「誰のせいだよ」
「俺のせいか。すまん」
ははっと笑う豪。俺はそんな豪を見てほっとしたのか、釣られて笑ってしまった。けど、良かった。見つかって。もしこのまま見つからなかったら、俺はどうなっていただろう。そんな時だ。豪は突然俺を抱き締めて来た。
「ん?」
「俺さ……気付いたわ。お前と喧嘩して行く中で。どっちが悪い、とかじゃなくて。………俺が早く大人にならんとな。理解力が足りないんじゃ」
そんな事ない。と言おうとしたのだが、声が出て来なかった。だから無言のまま、話を聞き続けた。
「そんでな。………いつも喧嘩した後、巧が傍に居らんって事に気付いて、焦って。一人で後悔して、逃げて……」
「…………」
豪は俺の背中をぎゅっと掴んで来た。それが、何故か悲しかった。理由は分からない。
「ほんまにな、お前が居らんと、野球どころじゃなくて全て無理じゃ」
「それ、軽い告白に聞こえるんだけど」
「告白な訳あるか。前に言うたやないな。恋人として付き合おうって」
「そうだけど。またそれとは別」
なんじゃい、と笑う豪。この分なら大丈夫だな。俺はほっとし、ため息を零してしまった。そしてようやく豪は俺から離れた。
「………帰ろう」
「おう。おふくろ、めちゃくちゃ怒ってんじゃろうな〜」
「お前が素直に帰らないからだよ。俺は帰ったぞ」
帰り道、今までの経緯を豪に話しながら、歩いた。この時間帯の夜は嫌いなんだけど、今なら好きになれる。豪が居るからかな。とにかく、安心感がすごい。
俺もなんやかんだ言って豪が必要何だからな。






END

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