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□言えない辛さ
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ここ最近、俊が海音寺と仲が良い。それは別にええんやけど、何と言うかな。俺の知らん俊を海音寺が知ってるようで、嫌やった。けど、そんな事を言える訳も無く、ただ虚しく、日々が過ぎて行った。

そして高校生になって。俺と俊は離れ離れになった。同じ広島にまだ居るからええけど、けど学校が違う事が、とても嫌やった。あんだけずっと一緒に居たのに急に離れるとか、考えられんかった。
朝起きても、俊と一緒に学校に行けないって、拷問やろ……。俺は高校初日の朝にそう思っていた。
そして、それからそれなりの月日が経って。春の風が夏の生温い風に変わった頃、俺は俊と久々に会った。会ったと言うより、俊を呼び出した感じじゃな。

いつもの公園に呼び出して。俺は俊を待った。夜に呼び出すのがええかと思い、21時辺りに来いと言った。

時間通りに俊は来て、そこには変わらない幼馴染みの顔があった。
「久々じやな」
「おーう」
いつもの俊がそこには居て。俺は安心したのか、ため息を零してしまった。
「?どうした」
「いや、俊が今まで通りと言うかいつも通りと言うか……。とにかく、安心した」
「はっ。高校生になったぐらいで変わるかよ」
公園のブランコに座ると、俊はポケットから煙草を取り出していた。つか、俊、ブランコ好きじゃな。そこには敢えて触れんが。
「お前……まだ吸ってんか?」
「ん、まあな。ちなみに酒もまだ」
俊らしいな。俺はそんな俊に対して、笑みが溢れた。
「なんや、人の顔見て笑いやがって」
「そう言う意味で笑った訳やない。変わらんなって、ただそれだけや」
「ふーん。相変わらず、俺の事が好きなんやな」
そりゃあ……。あん時から、お前の事が好きで……。ってそんな事、言えんか。俊は普通な恋愛をしたい筈。それを俺如きで塞ぐとか、駄目じゃよな。俺は俊に笑って返した。あまり間を空けるとな、怪しまれるしな。
けど、本当は言ってしまいたい。お前の事が好きだと。それが駄目だと言う事ぐらい、分かっている。だから尚更言いたいのだ。大好きで、愛しいお前に。誰かに取られる前に。
「………俺だけ、野球やってねぇな」
「お前がそっちの道を選んだんじゃろ?」
「まぁ、そうなんじゃけど……。何か、なぁ。変な感覚や」
良く言うわ、こいつ。散々野球を馬鹿にして来て、止めたい止めたいって言ってた癖に。相変わらず、俊の考えてる事は読めん。そんな時じゃった。急に携帯の着信音的なもんが鳴り響いた。多分俊のじゃろう。
「うげぇ、何つうタイミング……」
「誰からじゃ?」
「海音寺」
「っ………」
その単語を聞いたら、胸が急に苦しくなった。嫌い……て訳やないんやけど、けど、何かな。言葉では言い表せないこの気持ちに、俺は不快感を覚えた。
「今?秀吾と居るけど……。………あー、うん、せやな。………うーん………」
何を話してるか、酷く気になる。けど聞ける訳もなく、俺は黙ってその会話を聞いていた。
「おう、またな」
「………」
話は終わったようだが、俊は何も言って来ない。って当たり前か。俺はふぅと、息を吐いた。
「海音寺な」
てっきり、電話の内容を話さないかと思ったら、俊は話していた。
「たまには皆で野球しないかって誘って来やがった」
「アイツらしいな」
「な。まぁ、やらんけど」
やっぱりか。俊が野球やる事は、もう一生ないんやろか。俺はふと、そんな事を考えた。野球から遠ざかった俊が再び野球に戻るとは、到底思えんし……。野球に関しては、諦めるしかないんかな。けど、だったらもう一度、それで最後の野球にしてええから、一緒に試合をまたやってもらいたい。試合やなくてもええ。とにかく、一緒に野球がやりたい。今の俺の願いは、ただそれだけじゃ。
「なぁ、秀吾。お前……彼女出来たんか?」
「は??」
「いや、ふと思い出してな。唐木辺りから聞いたような……」
何やその噂。変な噂作るなや。俺が好きなのは、俊、お前だけなのに。何や、彼女って。
「………あのなぁ、俺が女に興味がある訳ないやろ」
「野球馬鹿め」
「そんな事、お前が一番よう知ってるやろ」
「………まぁ、せやな」
煙草の火を踏んで消す俊。俺は何も言わずにその光景を見ていた。そして俊は立ち上がり、そろそろ帰ると言い出した。
「お前に彼女が居らんのなら、ええ」
「………お前には、居るんか?」
「いねぇよ」
即答されたので、俺は安心出来た。俺に背を向けて歩き出す俊。止められるなら今かと思ったが、俺は止めんかった。止めても、何を言えば良いか、分からんからな。
「………あー、秀吾。明日の朝、お前の家に寄るから。朝早く行くから……起きろよ」
「?おう」
俊はそれを振り向かずに俺に言って来て。そしてそのまま俊は公園から出て行った。俺は1人この場に残り、まだブランコに座っていた。明日……来るのはええんやけど、何しに来るんやろか。あっ一緒に途中まで学校に行くとか?って、途中までも道が全く違うから、無理な話やな。なら………何やろな。

久々にちゃんと話をした幼馴染みは、あまり変わっていなくて。俺はそこに安心はしたが、不安もあった。何故かは分からないが。ふと俺は携帯の時計を見た。あぁ、もうこんな時間か。そろそろ帰らんとあかんな。だから俊も帰ったのか。俺はブランコから立ち上がり、公園を出た。明日の朝、か。ならいつもよりちと早く起きればええか。俊……何の用何やろな。気になって眠れんかも。





END

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