バッテリー

□約束
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今でもよう聞かれる。

『野球はやらんの?』

馬鹿野郎。誰がやるか。もう……俺とは何の関係も無い。無関係や。あんなの、ただの遊びや。


あん時で全て、終わらせたんや。




あーっさむっ。もう直ぐ文化祭じゃな。やっぱこの秋から冬にかけての間にやるのがええよな。俺は、まぁ生徒会に入らされたから、最後まで学校で残って言われた事を熟し、靴箱から革靴を出し、帰ろうとしていた。
「瑞垣ー、一緒に帰ろうーぜー」
聞き覚えのある声が、後ろの方から聞こえた。
「おう、荒木。ええけど、俺コンビニ寄っから」
「あっ俺も行くー!」
校舎から出て、門の所に差しかかった時だった。俺は違和感を感じた。それは不意やった。一瞬足を止めた俺だったけど、歩き出した。

だがその違和感は的中した。門から出た時、聞き慣れた声が俺の名を呼んでいた。マフラーを巻いてる高身長の男が、そこには居た。
「………何しに来たんや、秀吾」
「お前に話があるから、来たんや」
「………」
はぁと俺は深いため息をついた。
「えっ誰?瑞垣の友達?」
「まぁ……。そんなもんや。予定変更や。荒木、お前一人で帰れ」
「えーっ。こんな夜道、俺一人じゃ危ないじゃろ〜」
「あほ、何言うとるんじゃ。良いからさっさと先帰れ。明日コンビニで一つだけ何か買ってやっから」
「……仕方ねえな。んじゃ、約束な?また明日なー」
「おう、明日な」
俺をずっと睨み付けてる秀吾。言いたい事があるなら、はっきり言えばええのに……。ってあの秀吾くんがそう簡単に言う訳ないな。またため息を付いてると、秀吾が歩き出した。俺は黙ってついて行く事にした。



秀吾に連れられ、来た場所は小さい頃良く遊んだ公園だった。
「………良くもまぁ、こんな所に……」
「この時間なら、ブランコに乗っても平気じゃろ」
そう言いつつ、ブランコに腰を下ろす秀吾。
「何か懐かしいな。昔はこうやって良くお前と……」
「秀吾、何が目的なんや。はっきり言え」
「……………」
そこで突然黙る秀吾。何なんや。男ならはっきりせい。俺も秀吾の隣のブランコに腰を下ろした。
「………俺な、俊。高校行って、色々考えてたんや。野球の事、将来の事とか」
「………だからそんなのと俺と、なんの関係が」
「ある。お前にだって、関係ある話や」
急に声のトーンが下がったから、焦って秀吾の方を見てしまった。
「俊、俺から逃げるな。野球からは逃げてもええ。けど、俺からは逃げるな」
「………逃げてねぇよ。現に今、隣におるじゃろ」
「そうじゃなくて、お前は俺の目を見て話さんくなった。それは俺から逃げてるからやろ?ちゃんと俺を見てくれ」
「……………」
返す言葉が無かった。確かに俺は、秀吾から逃げてた。怖いんやない。……お前を変えたのは、俺や。だから、……。
「………へっくしゅ」
俺は寒いのかこの場の沈黙を破りたかったのか、とにかくくしゃみが出た。
「あっ……、寒いよな。すまん」
そう言って秀吾は立ち上がり、俺の前に来てしゃがみ、俺の首に自分がしていたマフラーを巻いて来た。
「ほら、これで寒くない」
「………秀吾」
「うん?」
「……………ごめん」
「……俊」
「俺が、お前と原田と戦わせなければ、会わせなければ、お前は………」
そこまで言いかけた時、秀吾は俺の額にでこぴんを食わらして来た。
「なっ……!?」
「ばぁか。そんな訳ないやろ。原田と出会わなくても、俺は今の道を選んでる」
「………」
「……………俊、小さい頃、ここで交わした約束、覚えとるか?」
「約束?………あれか?滑り台の上で……」
「ああ」
「……確か、お前がプロ野球選手になったら、俺を嫁に、とかだよな?」
「おう。今思ったら、何言うとるんじゃろな(苦笑)……けどよ、俺はな、プロにならんでも、お前を迎えに行くつもりじゃったんじゃ」
「………お前」
俺はふと立ち上がる秀吾を見つめた。
「俊、大学は一緒の所に行こう。東京に」
「………は?何で東京なんや?」
「そうすれば、一緒に暮らせるやろ?」
「金は?」
「何とかする。とにかく、行くぞ」
この男は……。俺はやれやれと言う感じで、ブランコから立ち上がった。
「仕方ない、突きあったる。特別じゃぞ?」
「分かってる。頼むぜ」
「おう」
俺たちは公園から出ると、秀吾と別れ、自分の家へと向かった。


家の前に着いてから、俺は気付いた。秀吾のマフラー、しっぱなしで来ちまった。……まぁ、明日ぐらいに返せばええか。

ふと、俺は何を血迷ったのか。そのマフラーの匂いを嗅いでいた。
あぁ、秀吾の匂いや。変わらない、あの匂い。そして一番落ち着く。………このままマフラーを借りパクしたら、あいつ怒るかな。そんな事を考えながら、俺は家に入った。








END

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