QUARTET★NIGHT(小説)

□深層心理4
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「あっ、いたいた! シオン!!」

「なに? 夕子」




キャンパスの廊下を歩いていると、少し離れた所から駆け寄ってくる彼女は阿久津夕子。
私の親友だ。


「今日、合コンがあるんだけど女子が1人足りなくて……」


そして彼氏持ち。

本人曰く、友人がイチャイチャしている所をみるのが醍醐味らしい。

よって浮気ではないようだ。


私には意味がわからないな。


「私お酒弱いし、彼氏もいらないから行かな……」

「いいじゃない! お酒飲まないでご飯食べてくればいいのよ! 食事代は全部男持ちだからさ!
先輩がせっかく組んでくれた合コンなの! お願いシオン!」


…………親友にこうも頼まれたら断れないよ。

彼氏に言いつけてやるっ!

まぁ、なんてことはしないけどさ。

食費も浮くし。

学生の1人暮らしは大変なの。


「分かったよ。食べまくって帰る!」

「ありがとうシオン!!」


私が笑いながらそう言うと、彼女もホッとしたのか笑みがこぼれる。

18時に店の前で待ち合わせしようね!≠ニ言って夕子は来た道を戻っていった。




さぁ、男たちが困るぐらい食べよっかな。




。。。。





「あっ、シオン! こっちこっち!!」




店入り口から数歩離れた場所に立っている夕子。

ミント色のフレアスカートに、腰に大きなリボンがある白いブラウスといった格好である。

ネックレスやハイヒール、バックの組み合われも良くてさすが夕子。

女の鏡だよ。

あとは彼氏がいるのに合コンに行かなければね。


「何人集まることになってるの?」

「5対5よ。2年生と3年生」

「3組しかカップル出来ないね」

「あんたも彼氏をつくる気になれば4組よ」

「冗談」


そうして2人は笑いながらお店の扉のノブを引っ張った。


お店に入ると大半のメンバーがそろっていた。

男女があいさつを交わすと席に着く。

私はどうせご飯食べるだけだと一番左端に座らせてもらった。






…………向かいの人、どうしたんだろう。

すっごくイライラした顔してる。

舌打ちも聞こえるし。

私と同じで数合わせで連れてこられたのかな?


向かいに座っているオッドアイの彼に親近感を感じた私であった。



『あれ? もう1人はどうしたの?』

『少し遅れそうだって連絡が来てるんだ。黒崎はメシで釣ればいいけど、アイツを呼ぶのは苦労したんだぜ…………おっ! きたきた!』


そちらの方に目を向ける夕子含む女子4人。

私は目の前の夕飯があればそれで良いよ≠ネんて思いながらウーロン茶を飲んでいると。

右4人からものすごい黄色い声が聞こえた。


……もはや悲鳴だ。

なんてことを考えていると。


「あれ、キミ……」

「あ」



美風さんが立っていた。



『やっと来たな! コイツはオレの後輩で美風っていうんだ』

「美風藍です! よろしくお願いします」


美風さんはニッコリ微笑んで小首を傾げた。

右側の女子4人はもう骨抜きにされているようだ。



……あれ?

美風さんってこんな人だっけ?

もっと素気ない人だと……。



美風さんはランマル、そっち詰めてよ≠ニ小さい声で言うと、私の向かい側に腰を下ろした。


「もう、シオンったら! あんなイケメンを目の前にして悲鳴の1つも上げないの!?」

「えっ、いや、美風さんってもっとこうね。きつう゛っ?!」


きつい≠フ3文字を言おうとしたら、いきなり足に衝撃が走った。

何が起きたのか分からず視線を夕子から周りに移すと……。

正面に座っている人が最上級の笑顔をこちらに向けながら私の足をグリグリと踏みにじっていた。


「? なに、どうしたのよシオン?」

「いやっ……なんでもない」



美風さん。

可愛い顔して怖い。



こうして全員そろった状態で合コンはスタートした。

先程の座り方とは違い、みんなバラバラの席に腰を下ろしていた。

…………私以外は。


私、いなくてもいいんじゃない?

動かないのがダメなのかもしれないけど。

でも、これでゆっくりご飯が食べられる。


……よく見ればあと2人動いてない人がいた。

目の前にいる美風さんは、怖いぐらいの笑顔で両手に花といった感じで私の先輩を相手していた。

黒崎先輩っていう人もその二人に絡まれているけど思いっきり無視して、目の前にあるご飯を食べ続けている。

私も食べたらさっさと帰ろうかなぁ。


なんて考えながら飲み物に口をつけていると、私の隣の席にほろ酔いの男の先輩が腰を下ろした。


『君、名前なんて言うの?』

「あっ、武藤シオンです」

『シオンちゃんだね、よろしく! 一緒にお酒飲まない?』


持ってきてくれたのか両手にあるお酒の1つを手渡してきた。


「私、お酒が弱いので……」

『心配しなくて良いよ。酔い潰れちゃったら俺が介抱してあげるからさ』

「やっ、あの……」


先輩は私の太ももに手をついて、飲ませようと口元にお酒の入ったグラスを押し付けてきた。

どうしたらいいのか分からず、手が宙を舞っている私。



「先輩」



突然、美風さんの声が聞こえた。


「彼女たち、先輩とお話がしたいそうなんです。ボクが彼女といますから」


そう言って美風さんはニッコリ微笑みながら席を立った。


『俺、シオンちゃんと飲みたいんだけどな〜』

「ボクも彼女と同じでお酒飲めませんから。彼女たちと飲んであげてください」


私に絡んでいた男の先輩は僕のそばにいた彼女たちが、先輩のことタイプだって言ってましたよ≠ニ言う美風さんの言葉に気分を良くしたようだ。

私から離れて美風さんの座っていた席に腰を下ろした。



「キミさ、嫌なら嫌って言いなよ」

「す、すいません」

「なんでボクに謝るわけ?」

「いや、その……。お、押しが強かったですね! さっきの先輩」


あの先輩、お酒が入っていなければ良い人なんだけどね


そう言って美風さんは、さっきの先輩が私に持ってきてくれたお酒を一口飲んだ。


「美風さん、お酒飲めるんですか?」

「飲めるよ」


ってことはさっきの飲めない≠チて私を助けるために言ってくれたんだ。


「ありがとうございます。美風さん」

「なにが?」

「さっきの先輩から助けてくれて」

「別に。キミのためじゃないよ。ボクもキミの先輩が鬱陶しかったから交代してもらっただけ」

「……私は良いんですか?」

「絵を描かせてほしいって言わなければうるさくないんだけどね」

「それじゃあ、絵を」

「描かせないよ。それじゃあ≠フ意味も分からないね」

「一度書かせてしまえば静かになるかもしれませんよ」

「静かにならないのわかってて言ってるでしょ」


そうしてグラスに残っていたお酒をグイッと飲んでテーブルに置いた。


「あっ、一口飲みたかった」

「飲んで泥酔されても困るよ」

「一口ぐらい大丈夫ですよ。多分」

「なにその多分って」


彼は呆れたようにため息を吐いた。


「キミ、もう帰りなよ。これ以上誰かに絡まれても助けてあげないから」


そう言って腕を捕まれると席を立ち、店のドアの方へ歩き始めた。


「あっ、あの……誰かに伝えなくて良いんですか? 帰るって」

「あとでメール入れておけば良いよ。どうせ今言ったところで覚えてないだろうし」


店を出ると店員さんのありがとうございました≠ニ言う声が小さく聞こえた。






彼の大きな歩幅に必死について行くといつの間にか駅の改札口に出ていた。


「ボクは4番ホームだけどキミは?」

「私、6番ホームです。ここからなら一人でも大丈夫です! ありがとうございました!」

「そう、それじゃあ気をつけて」

「はい! さようなら美風さん」


私はニッコリ笑って美風さんの背中を見送ると6番ホームを目指した。







あっ、もっと食べてから帰ればよかった。







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