QUARTET★NIGHT(小説)

□深層心理2
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「えっと…………?」




「ねぇ、質問してるのはボクなんだけど」

「あっ、すみません……」

「それ、キミが描いたんだよね?」


そう言うと少年は、風でめくれて別のページになったスケッチブックを拾い上げた。


「あっ、ちょっと……!」

「ボクこと勝手に描いてたんだからお互い様でしょ?」


私は態勢を立て直し、少年が手にしたスケッチブックを取り返そうとするが、あまりにも身長差があってなかなか届かない。

身長が低いとこういう時に不便なんだよ。


「へぇ……うまいね」

「……へ?」

「だから、きれいに描けてる。上手って言ってるんだよ。意味わかる?」

「あっ、うん。ありがとう」

「…………」


私の返事を聞くと、私の存在を忘れているのかと疑いたくなるくらい、スケッチブックを見つめ始める少年。

不思議な人だ。


スケッチブックをめくる、男にしてはきれいでいて角張った手。

サラサラな水色の髪。

透き通った声。

澄んだ瞳。

底の見えない心。


絵を描くことに慣れているせいなのか。

私は人物画を描くとき、その人の今の心境が大雑把にだがわかる。



色鉛筆を手に取ると同時に色が溢れる。


この人の色は今笑っている。

恋からくるものだろう。

彼氏と良いことがあったんだろうなぁ。
とか。


この人の色はくすんで見える。

仕事で何か失敗したのかなぁ。
とか。


普通に生活している人に比べてかなり相手の心が読めるはずなのに。

この人からは何も読み取れない。

心が澄み過ぎていて色をすくい取れない。



この人を描きたい…………。



「あのっ!」

「なに?」

「あなたの絵を描かせてください!」


私は思いっきりその少年に頭を下げた。





「ダメ。この絵が最後だよ」



彼の唇に彼自身の人差し指がそえられる。
どこか艶のある笑みを浮かべて。



そしてスケッチブックを私に返すと、どこかへ歩いて行ってしまった。







またどこかで会えるかな?





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