QUARTET★NIGHT(小説)
□事情聴取4
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「…………い。……おい! 起きろっ!!」
「ん……?」
交番のデスクに体を預けて仮眠をとっていた私。
この声…………。
「えっ……! 黒崎さん?! …………あれ? まだ午後の8時ですよ?」
「オレがここに来る=補導にすんじゃねぇ」
「すみません。でも、大分寝てしまったのかと思いましたよ」
そう言って髪を少し整えていると。
「あっ、あれ? 他の人たちは?」
辺りを見渡しても青い服を纏った仕事仲間がいないことに気付いた。
「パトロールしてくるだとよ。お前のこと任された。たく、てめぇに頼んだんじゃ留守番になんねぇだろ」
「常連さんだから気を許してるんですね。みんな」
私はクスッと笑ってからもう一つあることに気付く。
「……今日はどうしたんですか? お仕事は?」
「今日はもうオフだ」
「そうなんですか」
「……遊びに来たんですか? 交番に」
「ちげぇよっ!! そ、その、この間のライブのことだけどよっ……」
「あっ! 私、見に行きましたよ! 凄くかっこよかったです!! 歌もとても心に響きました。泣きそうになりましたよ」
「そうか……」
「テレビでファンの人が、涙ながらにカメラに向かってコメントをしているのを見るといつも思うんですよ。
泣くほどなのかなぁ≠チて!
でも、黒崎さんの歌を聞いて、本当なんだって思いました!」
「……っ」
「黒崎さん? そっぽ向いてどうしたんですか?」
「なんでもねぇ」
なんか心なしか顔が赤いような気もする。
私は大丈夫ですか?≠ニ黒崎さんの顔に自分の顔を近づけて視線を合わせた。
「オ、オイっ……。ちけぇ」
「あっ! ご、ごめんなさい」
私はあまりの近さに今気づき、勢いよく距離をとった。
片思いしている相手に自分から思いっきり近づくなんて……。
それに相手はアイドル。
ここに遊びに来てくれるのは、ファンの目を気にせずに世間話ができるからってだけで……。
「なぁ」
「はい?」
「お前、付き合ってる奴とかいんのか?」
「いえ、いませんよ。警察官は出会いが少ないですからね」
さっきまでの動揺を抑えようと普段のように冗談を言ってみせる。
「そ、そうかよ……」
そしてまた沈黙に包まれた交番内。
さっきからこの沈黙…………。
黒崎さん、一体どうしたんだろう?
「あ、あの……」
ガタンッ!
自分が座っていたイスの倒れる音に気付けば、体の自由が利かなくなっていた。
腰に回っている筋肉質な腕。
後頭部を押さえられている大きな手。
掌に感じる分厚い胸板。
唇に感じる温かい感触。
私、好きな人とキスしてる。
そのことに気付くのに少し時間がかかった。
でも相手はアイドル。
お互いの唇が離れた。
黒崎さんの熱い眼差しが私へと降り注ぐ。
「お前のことが……好きだっ」
「…………私も……黒崎さんのことが……好きです。でも……っ!」
また唇が重なった。
さっきまでとは違う、熱くて深いキス。
足の力が抜け、黒崎さんの支えている腕がないと座り込んでしまいそうだ。
「ん……はぁっ」
「はっ。でもなんだよ。好きなんだろ」
「でも、アイドルと警察官が付き合うなんて事務所として……。それに恋愛禁止ですよね?」
私は俯いてそう呟いた。
「んなこと気にすんな。オレがおっさんを説得すりゃ良いだけだ」
「おっさん……?」
「オレの事務所の社長だ」
「付き合ったら黒崎さんに迷惑かけますよ」
「オレが傍にいろっつってんだから、いりゃ良いんだよ!」
そう言うと黒崎さんは笑みを浮かべ、また私をきつく抱きしめた。
私は彼の香りと体温にホッとして彼の背中に腕をまわした。
「オレと付き合ってくれるか?」
「はい! よろしくお願いします。…………黒崎さん、好きです。大好きです……」
私は黒崎さんの胸に顔を押し当てながら好き≠ニ繰り返した。
しっかり気持ち、伝わったかな?
私は顔を上げて黒崎さんを覗き込むと、そこには口元を手で覆いながら真っ赤になっている黒崎さんの顔。
「すごい顔真っ赤ですよ。黒崎さん」
「うっせぇ、見んな」
そう言って私の顔を胸に押し付ける黒崎さん。
そんな様子にクスッと笑いがこみあげてしまう。
いつまでも黒崎さんの傍に入られますように。
(ランランッ!! おめでとちゃーん!!)
(ボク達に背を向けてるからキスシーンしっかり見えなかった。役の参考にしたかったのに)
(女嫌いだった貴様がな)
(はっ?! てめぇらなんでいんだよっ!!)
(ちなみに俺もいるよランちゃん。レディも久しぶりだね)
(あっ、レンさん。お久しぶりです)
(はっ? お前、なんでレンのこと名前で呼んでんだよ。オレも名前で呼べ)
(ランラン、無理強いはいけないよぉ〜!)
(………………ら、蘭丸さん)
(…………)
(ちょっと。ここで惚気るの止めてよ)
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