QUARTET★NIGHT(小説)
□事情聴取2
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「また補導されたんですか? 黒崎さん」
「またって言い方止めろっつってんだろ!」
黒崎さんはここの交番の常連さんだ。
別に黒崎さんが悪いことをしているわけではない。
今日だってカツアゲされたおじさんを助けたら、おじさんがまたカツアゲされると思ったらしく逃げながら通報してきたものだった。
そのきつい目つきと口調が原因なのだけど…………。
ここに黒崎さんが来るのは5回目である。
理由も今日みたいに助けようとしたことが原因で。
「まぁ一応、形上の事情聴取と書類作成はさせてください」
「おう」
5回も交番で顔を合わせていればわかってくる。
事情聴取と言いつつ、会話の9割は世間話だ。
目つきと口調がきついだけで、性格は優しくて良い人なのに。
「黒崎さん」
「あ? んだよ」
「化粧落として出歩いたほうが良いんじゃないですか?」
「スッピンで歩けってか?」
「はい」
はぁ? んなのロックじゃねぇ≠ニか返ってくるのは重々承知だがとりあえず言ってみる。
「はぁ? んなのロックじゃねぇ」
ほら当たった。
しかも一字一句間違えずに。
「そういえば黒崎さんって補導されるのはいつもこの時間帯ですよね。
それにそのロック≠ネ化粧で…………お仕事は何をされているんですか?」
シオンはこれまでの資料と自分の記憶を吟味してそう言った。
ロックの所だけ強調してみる。
「……てめぇ、知らねぇのか?」
「? 悪いことをしたわけではないので、詳しく書類に書いてないですから」
「……普段、何してんだよ」
私の返答は返ってきていないのに、黒崎さんから質問が飛んできた。
「普段? そうですね……。この後、朝の8時頃までここにいて、家に帰るとひと眠り。
その後は洗濯と買い物、ビデオを借りてきたりすると家で見ていますよ」
「ミュージック番組とか見ねぇのか」
「あー……。最近はあまり見てないですね。警察官としてニュースは把握していますけど」
「……おい、来週の日曜日空いてっか?」
「え? はい、非番ですよ」
そう言うと黒崎さんはポケットに手を突っ込み、少しシワの着いた紙を取り出した。
「これ、見にこい」
差し出されたものはコンサートのチケット。
「ランちゃん、迎えに来たよ」
「おぅ、レンか」
何のコンサートか聞こうとしたが迎えが来てしまったようだ。
「ぜってぇだぞ!!」
「あっ、ちょっと……」
「レディ、またね」
そう言うとレンさんという人と帰ってしまった黒崎さん。
QUARTET★NIGHT・ST☆RISHライブ
早乙女スタジアムにて18:00開演!!
スターリッシュ?
カルテットナイト?
なんで私にコンサートのチケットを渡したの?
…………あっ、もしかして私という話し相手が世間に疎いから、年相応の人になって欲しいのかな?
そ、それともデート……?
…………そんなわけないよね。
黒崎さんは仕事帰りに仕方なくここに来て、事情聴取を受けさせられているんだから。
私の思いを無理やり押し付けるわけにはいかない。
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