サマーウォーズ
□第一章
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ばあちゃんとじいちゃんは優しかった。
一ヶ月たっても迎えに来ない父をずっと待ち続けている私を心配して、子供が多いところに連れていったらいいのではと考えた。
私はただずっとばあちゃんたちについていた。
ずっと。
ベッタリと。
ばあちゃんたちは私を優しく見守りながら、じいちゃんの軽自動車で揺れながらどこかに向かっていた。
じいちゃんとばあちゃんは結構大きな地主なのだが、慎ましい生活をしていた。
だから、私はその家を見たときに驚いた。
いや、家だとは思わなかった。
昔母が言っていたい上杉家の家だと思ってしまった。
だから、ついたとたんこの家の当主だと言う60くらいのおばあちゃんの前でこう言ってしまった。
「ここはうえすぎ家の家なの」
「いいえ。ここは武田信玄の家臣の家さ。」
知らないおばあちゃんが答えた。
私には上杉家の家にしか見えなかった。
「ちがうの?」
私は泣きそうになった。
「ご免なさいね栄さん。この子の母親は上杉家の家臣の分家でね。」
そう、ばあちゃんがいったと思う。
「名前は?」
「…ゆか。」
私は怯えながら答えた。
ばあちゃんは知らない人から聞かれてもなにも答えない私を心配していて、栄さんに聞かれて答えたのがとても嬉しかったと言っていた。
「私の名前は陣内栄です。栄おばあちゃんでいいですよ。」
私は悩んだあと、
「だめー。おばあちゃんはおばあちゃんだけ!」
と言って私のおばあちゃんを指差したそうだ。
この時おばあちゃんは凄く嬉しかったと何度も言っていた。
「じゃあ、なんと呼びたい?」
「うーんとね。さー、さ、さ。」
「ゆっくりいってごらん。」
ばあちゃんがそうさとしてくれたからあんなことが言えたんだと思う。
「栄ちゃん!!」
数秒静かになったと思ったら、クスクスと笑い出した。
「じゃあ、栄ちゃんって呼んでね。」
と茶目っ気たっぷりに言ってくれた。
それ以来私は栄ちゃんと呼んでいる。
「ゆかちゃん。敵軍の家臣に我が内情を教えるのは悔しいが、ゆかちゃんだけに見せてあげよう。」
そう、栄ちゃんが言ってくれなきゃ私はあの人に会えなかった。
私は、“私だけ”という言葉で嬉しくなった。
「うん!たんけーん!」
私は走り出した。
この時間、大人は仕事、子供たちは学校だったので家には誰にもいないはずだった。
一人を除いては…。