サマーウォーズ
□第十二章
1ページ/4ページ
四月
私は高校に入学した。
色んな人が入ってきて、まさか一学年に4クラスもできるなんて思わなかった。
人がいっきに増え、私は居場所を探すようにすぐに理工部に入部した。
廃部寸前だった理工部は、私が入ってから一週間で男子が三人増え、廃部は免れた。
高一にもなると、皆考えが大人で、なぜ自分が勉強しているのかを理解し、これからどうしようか真剣に考えているものが多かった。
高校生活を楽しまないと…。
そんな強迫観念めいたものに私は押しつぶされそうになっていた。
唯一、私は月に行われる修学旅行が楽しみで仕方がなかった。
美咲ちゃんとさとし君の仲はまだ続いている。
今は親睦深めるために、クラスの子の名前を必死で覚えながら、OZの話をした。
パソコンはまだ普及してないが、持っている人は持っている状況だった。
そういう人たちにOZを勧めてみたり、話してみたりして、話の輪が広がった。
高校生活は楽しめそうだ。
理一は万里子おばさんからのお見合いはすべて断るといっているそうだ。
私にも、『夏帰ってくるときに見合いなんかがあったらすぐに知らせてほしい。』なんて手紙が来たくらいだ。
理一の友達らしい人たちがこちらに満面の笑みを浮かべて映っている写真の中に、女性がいるのを発見した。
すぐに手紙を送ってみると、自衛官の中に女性が増えてきているそうだ。
理一は職場に縁がないと言っていたけど、あるじゃないか!
私はびっくりしてしまった。
まさか、侘助と理一は大人だし。
彼女くらい至って当然なのだけれども・・・。
何か腑に落ちない。
五月
大変なことが起こった。
本当にやばい!
侘助と一緒に写っていた女性。
が、ここ上田にいたのだ。
侘助と一緒に。
私はすぐにものかげに隠れた。
「やっぱり付き合ってたんだ…。」
私は二人を尾行することにしたが、尾行して10分で二人は別れてしまった。
私は女性のほうを尾行しようとしたが、見逃してしまった。
「あら、さっきからどうしたの?」
「へ?」
後ろを振り返ると、尾行していた女性が立っていた。
「あ、あいや…その…。」
「ほら、座りなさいって。知りたいんでしょ?」
女性は長い茶色の髪をかきあげると、足を組んでカフェの椅子に座った。
かっこいい…。
「私と陣内侘助の関係を知りたいんでしょ?」
私はうなずいた。
「あなたが思っている様な関係じゃないわ。私たち体の関係は持ったけど。それ以上はなかった。」
さらりとすごいことを言いのけた。
「侘助から聞いたわ。写真みて誤解されたとぼやいてたわ。あなたのことが相当大事みたいね。…妬いちゃうくらい。」
女性はふふっと笑うと店員を呼んで、コーヒーを頼んだ。
「あ、私は・・・。」
「この子にはショートケーキを。」
店員は頭を下げると、店のなかに入っていった。
「さっき、侘助と話してね。あなたの事を聞いたわ。聞いてもいないのに楽しそうに話すんだもの。…初めてみたわあんな顔。」
そう、寂しそうに笑った。
ちょっと髪をあげる仕草や、笑顔が“大人の女性”らしくて憧れる。
「私の一方的な片想いよ。どんな言葉を言ったってこちらを見もしない。最後に侘助と撮った写真に、気づいてほしい気持ちを込めて裏にマークをつけたわ。」
そうだったのか…。
「きづかなかったから、こっちまで着たけど。ほんと、田舎ね。こんなおしゃれな店が此処には似合わないくらい。」
ケーキとコーヒーがきた。
食べないのは失礼だと思い、ケーキにフォークをさす。
「あなた、あの人のこと好きなの?」
「え?」
「妹のような存在だと言ったわ。
でも、あなたと侘助は10歳離れてるのでしょ?
…侘助から聞いたのよ。
そんなに驚いた顔しないで。
10歳“しか”離れてないのでしょ?
兄としてではなく、男性としてみることもあったんじゃない?」
「わ、私は…。」
侘助の隣に居ると落ち着くし、知らない女の人が居ると嫉妬しちゃうけど…。
これが恋だとは想ったことはなかった。
だって、理一と同じような気持ちなんだもの。
女性に「家族のように落ち着けてなんでも話せる相手だ」と、それと「侘助のような存在はもう一人いるから、やっぱり恋じゃないと思う。」と。
「…多分、それが愛なんじゃない?」
「はい?」
「初恋の経験は?」
「ないです。」
「じゃあ、あなたは特殊な初恋をしたのね。二人の男性を意識してる。」
理一と侘助の事が好き?
それは…。
「否定しちゃダメよ。だって事実何だからね。初恋を二人にしちゃったからよく“恋”とか“愛”というものが理解できないんだろうけど。」
そういってコーヒーをすする女性。
「もう、会うことはないでしょうね。侘助に二度と来るなって言われたからね。」
また美しい悲しみの笑顔を浮かべる。
「愛を理解するのは難しいだろうけど、いつか理解する日が来るわ。」
「あなたにはわかるんですか?“愛”が。」
「ええ、わかるわ。その人のためなら命をなげうってでも守りたいと思える相手がいたからね。
…さて、話は終わりよ。さようなら。」
女性は優雅に立ち上がると、お会計をして、一瞬もこちらを振り返らずに遠ざかって行った。
かっこいい女性だった。
私はあんなふうには慣れないかもしれない。
でも、私はあの女性のような綺麗な人になりたいと思った。