サマーウォーズ
□第九章
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三月
洋服を着ると、あまり背が伸びてないのに気付く。
小学校を卒業しても使えるようにって、おばあちゃんと町まで行って買った、一回り大きい大人しめのワンピースは変わらず大きい。
昨日、侘助の言っていた通り、業者の人が来て荷物を侘助のへやに置いていった。
もうすぐ帰ってくるのだろう。
私の卒業式に撮った写真を焼き回ししたので、手元に同じ写真が二枚ある。
理一は今日帰ってくる。
バイクの免許を取ったっと言っていたので、バイクで来るのだろう。
疲れてるだろうから理一の部屋は綺麗にして置いた。
理香姉は町役場に就職して、毎日忙しそうだ。
旧家の出で国立の大学を出た理香姉にいい出会いが無いのが不思議だ。
栄ちゃんは部屋で手紙を書いたり、庭いじりをしたり、時々電話などしている。
そうそう、私が六歳の時に作った畝は相変わらず曲がったま、トマトを実らせていた。
まだまだ、だが、夏になれば赤く大きい甘いトマトが食べられるだろう。
理一は、私が正月に心配をかけて、お休み使ってきてくれたのだ。
あの時、電報をもらって陣内家に行くと、もう理一が居て、すごく嬉しかった。
理一も会ってすぐ私を抱きしめてくれたし、久しぶりの大きな背中がうれしかった。
そして、今日理一が帰ってきて、また半年学校に行くそうだ。
侘助はずっとここにいるんだ。
四年間待ち続けたんだ。
こんなにうれしいことはないのだけど。
ただ、私は理一と侘助に迷惑をかけているのではないか?
と思い始めた。
私があの時あんなに泣いたから、侘助はこっちで仕事をしてくれるっていうし、本当だったらつながりの多い都心で仕事をしたほうがいいはずだ。
それに理一は一か月に何通もの手紙をくれる。
凄く体力的に疲れるはずなのに・・・。
私は理一と侘助が愛しくてしょうがなかった。
でも、私は二人の負担になっているのではないか?
大人に近づくにつれて、周りの意見も聞けるようになり、私はここに居たいと思うようになった。
以前は早く父と母に帰ってきてほしい思いでいっぱいだったのに・・・。
父はあれからどうしているのだろうか?
私をおばあちゃん家に連れてきて6年。
連絡は一度もない。
もう、母には会えないだろ。
そう思っているから、今はどうだっていい。
ただ、私は此処の生活に慣れたのもある。
「ただいま戻りました。」
理一の声がする。
私は理一の部屋を出て、玄関に走り出した。
「ゆか。」
「理一!」
私はにっこりとほほ笑んで、バックを持った。
「ああ、いいから。」
「いいの!」
私はぐいっと引っ張って、理一の手から大きなバックを受け取る。
「ゆか。」
「うん?」
「抱きしめさせてはくれないの?」
そう言って、ほほ笑む理一。
かっこいいのだから、そんな笑顔を見せないで!
「だ、駄目だよ。私もうすぐ中学生になるんだもん。」
「ええ〜。」
「さ!栄ちゃんのところに行ったら?」
おどおどしながら答えると、理一は不服そうに私の頭を撫でてから栄ちゃんのところに行った。
私は理一の部屋に荷物を置くと、理一の乗ってきたバイクを見ようと外に出た。
「おお!大きい。」
黒と青の大きなバイクだった。
後ろに人がもう一人乗れそうだが、残念ながら私は乗れそうにない。
ペタッと触ってみるとまだ熱を持っていた。
「それ、創業するときに教官からもらったんだ。」
理一がいつの間にか後ろに立っていた。
「え?そうなの?」
「うん。本当はもらっちゃいけないんだけど、教官のお孫さんがお亡くなりになったらしく、大きくなったらプレゼントにあげようと考えていたみたいなんだ。」
そういって、バイクをポンポンと叩く。
「CB400SF。初心者には扱いやすいって言われてね。
…はいっ。」
ヘルメットを差し出され、私は戸惑いながら受けとった。
「まだ下手だけど、安全運転で行くよ。」
「うん!」
私は急いで白いヘルメットをかぶると、理一の後ろに乗っかろうと試みるが、やはり駄目だった。
理一は私を抱き上げるとバイクの後ろに乗せてくれた。
重いのに…。
「ありがとう」
理一はバイクにまたがり、エンジンを入れる。
「しっかりつかまって。」
「こ、こう?」」
私は理一のしっかりとした腰につかまった。
「もっと。」
そういって私の腕をつかんで引き寄せた。
私は体勢を崩して、理一に抱きつく形になった。
頭は理一の背中に押し当てられ、理一の心臓の音が聞こえる。
私がなぜかドキドキしてんのがバカみたいに早くて、理一は普通に涼しい顔をしている。
「じゃ、いくよ。」
バイクがうこきだして、陣内家のから遠ざかっていく。
風が通って気持ちいい。
でも、落ちそうで怖い。
そういうスリルが楽しかった。
理一のバイクに揺られながら、神社についた。
「夏はずっと家の手伝いとかだから、あまりこれなかったよね。」
理一はここに来るのは4年ぶりか…。
私は毎年お祭りの時に来ている。
「ゆかも、もう中学生か…。」
「理一。こっち。」
三人で座ったベンチに腰を掛ける。
隣に理一が座る。
理一を見ると、以前理一の顔を見たときよりも首が痛くないことに気付いた。
理一の手が私の頭を撫でる。
私は帰りに家によって、陣内家に泊まりに行こうと考えていた。
このドキドキした感じと、ほのかな温かさが心地よかった。