サマーウォーズ


□第四章
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「こんにちわー!」

「あら、いらっしゃい。侘助なら部屋よ。」


万里子さんが出迎えてくれた。



「はい!おじゃまします。」


「ほんとっ、仲良いよね。」


理香姉が万里子おばさんに話しかける。



「そうね、いつも侘助といるから、あの子、もう小学生で勉強する内容覚えっちゃったんですって。」


「ええ!?…はあ、それに理一がゆかを甘やかすから、ゆかは理一になついて。」


「この一年は、あの二人に会うために来たようなものね。」


理香姉が万里子おばさん話にうなずく。


侘助と出会ってから約9ヶ月が過ぎた。


暑い夏がやって来た。

この9ヶ月間。


私は陣内家の畑の手伝いをしながら、侘助には勉強を、理一には遊んでもらい、この二人とは異常なほど仲良くなった。



その間、おばあちゃんとの生活も上手く行った。


ばあちゃんは地主として、土地を借りてる者に畑でとれた野菜を配ったり、おばあちゃんと同じくらいの歳の人と話をしながら交流を深めていった。



じいちゃんは広大な畑を耕していて、私もよく手伝った。


じいちゃんは口癖のようにいった。


「わしが死んだら、この土地を貸したり、売ったりしなさい。」


私はその話を聞くたび悲しくなり、ボロボロ泣き始めるのだ。


するとじいちゃんは私をおんぶして家に帰るのだ。


おじいちゃんはたまにこういう事を言うが、私が泣くのでこの頃言わなくなった。


そのお陰なのか、まだじいちゃんは死んでない。








私はよく理一には抱き付いた。


足に抱きつくとそのまま抱っこしてもらえるのを知っているからだ。


でも、小さいながらも、侘助には理一ほど力がないのを知っていた。


だから私はだっこをせがまず、侘助と手を繋いだ。

悪く言えばませている、よく言えば周りをよく見ている。
そんな子供だった。


夏は暑かった。

蝉が鳴き、日がジリジリと照りつける。


私は美容にうるさい直美姉の言い付けを守っていたので、紫外線を浴びないように生きていた。


それに、直美姉と理香姉は大学受験が始まったので、私は静かに理一のとこで昼寝したり、侘助と勉強をしていた。


このたった9ヶ月で私は小学生で勉強する内容を全て終えていた。



たった七歳の少女が“憂鬱”という字を書けるのだ。

これは凄いことだと思う。


ちなみに、嫉妬という言葉の意味と使い方も覚えた。




七歳の誕生日に侘助から本を貰った。


アガサ・クリスティーの「そして、誰もいなくなった」だ。

七歳の少女になんていう本を見せるのかと反発があったけど、私は嬉しかった。


理一からはばあちゃんが作ってくれたリュックを私専用にしてくれた。

いや、元々私の物だったのだが、理香姉と一緒に頑張って、私らしくしたそうだ。


くすんだとび色の生地に“ゆか”と赤く付けられた名前。


回りにはくまさんや、ウサギさんが飛んでいた。


私はこれをかなり使い込んだ。


直美姉からはリップクリームというのを貰った。


唇ががさがだしたときにつけるそうだ。


ここの人たちは優しかった。


私はばあちゃんと一緒に作った野菜をお裾分けしたり、夕食の手伝いと称した料理教室などしていた。


そして、私は七歳ながらも、侘助がこの親戚と距離を置いていることに気付いた。


なぜだかわからないけど。


無理に侘助と他の人達とくっ付けちゃ、侘助が嫌がるということを理解した。


我ながら素晴らしい進歩だと思う。









長野に来て初めての祭りに行くことになった。

「わーびすけ!今日何があるか知ってる?」


私は侘助の部屋に入ったとたん、そう呼び掛けた。

侘助はうるさそうに立ち上がると、あっちいってろ。

とでもいわんばかりに睨み付けた。



暑いから気が立っているのだろう。



私はお気に入りのリュックからうちわを取り出して、侘助を背に、自分にも、侘助にも風があたるよう涼み始めた。


「…祭りだろ?」


答えるまでに10分まって返ってきた返答は大正解だっったが、素っ気ないものだった。

「侘助、行こう!お祭り。」


「嫌だ。」


即答だった。


「えー、いこうよー。」


「理一といけば良いだろう?」


「今日理一帰ってくるの遅いんだって、部活が忙しいって。」


「はあ、マジか…。」

「あと、今日お泊まり。」

「…わかった。」


私が陣内家に泊まりに来ると、理香姉にお風呂にいれて貰い、一日目は侘助の部屋で、二日目は理一の部屋で寝るのがお決まりになった。



「今日は侘助大学の勉強?」



侘助が時々学校に行かず、家で勉強しているのが金曜日か月曜日だということもわかった。


「ああ。」


「勉強終わったら行こう。」


「嫌だ。なんであんな暑苦しいところにいくのかわからない。」


侘助はそういうとまた勉強机に向かいだした。


「ちぇ…良いもん。理一が帰ってくるのを待つもん。」

私は拗ねて畳の上でごろんと横になった。


「あ!」


私はおばあちゃんと一緒に作った桃を取り出した。


「侘助!上げる。」


私は桃を一つ置くと、万里子さんに残りの桃を渡しに部屋を出た。


「万里子おばさん!」

「どうしたの?」


私はリュックから沢山の桃を取り出した。

「あら、こんなにたくさん。」



私は万里子おばさんに渡すだけ渡すと、直ぐに隠れた。


9ヶ月も経ったから知らない人ではないので、別に怖くはないのだが、お礼を言われるのがこそばゆくて、言われる前に逃げちゃうのだ。



これは万里子おばさんは承知の上で、後で私の頭を撫でてくれる。


これが、いつものやり取りだった。


侘助の部屋に戻ると、部屋にはまだ桃が残っていた。


私はリュックから本を取り出した。


「そして、誰もいなくなった」
を読み出した。


本は漢字ばかりで読めなかったけど、今は全部の漢字が読める。


意味もわかった。

これも全て侘助のお陰だろう。


ちらりと侘助を見ると、暑そうに勉強していた。


また私は侘助に風を送りながら本を読み始める。


侘助は私のようにありがとうと言われるのも、言うのも恥ずかしいようだ。


だから、いつも私の頭を二回撫でて、耳たぶをさわる。


私は耳たぶを触られるのが好きなのだ。


この事は侘助しかしらない。


私は侘助の後ろに場所を移して寝転がった。


もう寝る体制だ。


ページを一枚一枚捲りながら、段々とまぶたが重くなっていき、そして、いつも通り、最後のページに行く前に眠りについた。


これが、ここ2週間続いてる習慣だった。
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