サマーウォーズ


□第三章
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理一の自転車に揺られながら、ゴトゴトと揺れる。


私は理一の自転車の前篭に乗っていた。たまに段差があるとおしりが浮いて打ち付けられるから、とても痛い。



舗装されていない道路だからしょうがないのだが。

随分遠くまでくると、赤い屋根の建物が見えてきた。


「ゆかちゃん。あれだよ。」


回りが畑だらけなので、あの建物だとすぐわかる。

理一の自転車は赤い屋根の建物の敷地内に入ると、自転車を止めた。


侘助も慣れた手つきで自転車を端に止めた。



「名前書いてくる。お前の苗字はなんだ?」

侘助がぶっきらぼうに聞いてきた。


「うえすぎ!」

「…え?」


理一が驚いたように、まだ篭に入れられた私を見た。


「わたしはうえすぎけんしんのぶんけのそせんだー!」


「なあ?侘助。ゆかちゃんは近藤さん家のお孫さんだったよな?」


侘助は一瞬考えたあと、「上杉な…。」と呟いて建物のなかに入っていった。


「うそじゃないもん」私が小さく呟くと、理一さんはわたしを抱き上げて地べたに立たせてくれた。


「上杉ゆかちゃん?」


そう笑ってわたしの頭を撫でる。私は嬉しくなって、「はっ!」と言って返事した。


もう私の気持ちは戦国時代の武士だった。

「ではいくぞ!」


理一さんが私の手をとり建物なかにはいる。


「あ!あれ!あれ!」


私は中に入るなり目についた、大きなトランポリンを指差した。


「シシシ、あれが乗りたいのか。」

「わびすけ!あれ!」

私は靴を脱ぐとばーと走り出した。

乗ろうとするが、高くて乗れない。

侘助はそんな私をシシシと笑いながら、ひょいっと片足だけでトランポリンに乗った。


「わたしものる!」

と、トランポリンの金属部分に捕まりよじ登ろうとするが、どうしても登れない。

すると、急に浮游感になり、足元を見ると、何十センチも浮いていた。

脇の部分がぐっと体重がかかる。


理一が私をトランポリンに乗せようとしてくれているようだ。


「はい、どうぞ。」


理一のお陰でトランポリンの上にのれた。


「ありがとう!」

「どーいたしまして。」

私はトランポリンの上でジャンプし始めた。


お母さんといたときは、危ないからと言って見ているだけだったが、今は止める人はいない。



初めて、お母さんが居なくても大丈夫だと、安堵した。


今まで何度、早く迎えに来てくれないかと願ったものだが、初めて今はまだ来なくていいと思ったのだ。



「わびすけ!」


侘助はさっきから座ってぐーたらしているだけだった。



「おい、侘助。一回どいてくれ。」

理一が侘助に言う。

侘助は無言で退いた。


「ゆかちゃん、そのまま飛んでいて。」

理一さんはそういってトランポリンの端にのった。



「いくよー!」


理一が、私が着地するときに大きなバネになるようにおもいっきし飛び込むと、私の体はその反動で大きく羽上がった。


「きゃあーーー!」


私は初めての高さに上手く着地できず、おしりから落ちた。

ゴムだから痛くはなかった。


「すっごいおもしろい!」

「それは良かった。」


理一さんはわたしの頭をガシガシっと撫でた。


侘助は面白そうに眺めてる。

私は何度も理一に頼んで何度もやってもらった。


子供の好奇心というのは疲れを知らず、部活帰りの理一はすぐヘトヘトになった。


「ごめん、もう俺無理。」


「シシシ。だとよ。もうすぐ6時だ。お前のばあちゃん迎えにくるんじゃないか?」


いつの間にか寝転がっていった侘助が尋ねる。


「きょう、おとまり。」


「…は?」


侘助は栄ちゃんから聞いていなかったのだろうか?


「わびすけのへやにとまる。」

そう言うと、理一さんは笑いだした。


「侘助。お前初めて部屋に泊まらせんのは彼女じゃなくてゆかちゃんか!」


そう、はははっと笑いだした。


「りいちはへやにかのじょいれたの?」
残念ながら、この時の私は彼女という言葉を知らずに理一に聞いた。


「さあ?どうかな。」

そう、理一ははぐらかした。



「ゆかちゃん。」

理一は私の目線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「俺のへや来るかい?」

「は?」

侘助が飛び起きた。



「やめとけゆか。こいつは危ない。」

「危ないってひどくないか?」

理一が侘助に挑戦的な笑みを向ける。


「今の話の流れで部屋に来る?と聞いた時点で危ない。」

「うーん。じゃあね、きょうはわびすけとねる。あした、りいちとねる!」



私は名案だとばかりに喜んだ!


「だがゆか、明日まで「ばあちゃんから了承を得れば問題ないだろ?」…。」


理一はそういって立ち上がった。侘助も悔しそうに立ち上がる。



「帰るの?」

「ああ、帰るぞゆか。」

「いくぞ、三等兵!」

「はっ!」


私はバタバタ足音をたてて玄関に向かう。


「ありがとうございました。」

理一が玄関の隣にあるへやに向かって礼をいう。

侘助は私が履く靴を手伝ってくれた。

空はもう暗かった。

10月だから日が落ちるのが早い。

理一は羽織っていたジャンバーを脱いで、前の篭に敷き詰めた。



「さ、おいで。」



私は理一に駆け寄ると、理一はひょいっと私を抱き上げて、理一のジャンバーが入ったままの篭に入れた。

「りいちー。これ。」


私はジャンバーを踏んでしまわぬように返そうと思ったら、良いと言われた。


「さっき、乗ってて痛かったでしょ?」

そう言うと優しい笑みを浮かべて、自転車を動かし始めた。


「りいちー。ありがとう。」

「どういたしまして。」

理一はサドルにまたがり、侘助の後ろを走り出す。

今日の風は気持ち良い。

冷たくなった風にはしゃいで暑くなった体にはちょうど良かった。
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