イケメン王子のおっしゃるままに


□作戦
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仕事を辞め先に新居に住むことになった中原先輩は6月1日に住んでいた街を出た。
先輩は後輩でもある彼氏に新居に越して落ち着いたら手紙を送ると言って別れを告げた。
これは勿論ながら作戦の一つで先輩と私が同時期に居なくなったら彼氏は二人を血眼になって探すだろうと予測ができたから一度だけ手紙を書くことにしたのだ。
その内容はいつでも遊びに来てください、とは言いつつも肝心の新住所を書かないで出すため彼氏からは手紙すらも送れるはずもなく、けれどもそんな事態に陥っているとは知り得ない先輩は彼氏を軽蔑してしまい二度と手紙を出さないという流れにもっていくみたいだった。
先輩から頃合いを見計らって実乃果さんのタイミングで新居においでと事前に言われていた。
これから訪れる明るい未来に嬉しさが零れ出そうになったけど平静を装いながら中原先輩を見送った。




それから数日後、私が反省文を書いていなかったことに腹を立てた彼氏は私のバイトの前に喧嘩腰で詰め寄ってきた。
私はこんな地獄から抜け出すんだからもう反省文を書かない!と決め込んでいた為それに手をつけていなかったのだ。









実乃果『遅刻しちゃうからもう行くねッ!』




と大荒れになる前に私はバイトに行こうとした。
すると彼氏は









彼氏『俺が帰ってきたらどーなるか分かってんだろうな!!
覚悟しとけよ!!』




とスゴイ剣幕で脅してきた。
今日は彼氏も夜勤で私が出勤してから彼氏が仕事に行くことになっていた。
よって私よりも帰りは遅くなる予定だった。
いつもの事だと思っていても数時間後にはまた暴力を振るわれるのか…と思うと恐くて仕事が疎かになった。
バイトの休憩時間になりキッチンで深い溜め息をつく私に店長が









店長『実乃果さんどーしたの?
今日は何だか思い詰めてるようだけど家で何かあったの?』




と聞いてきた。
店長は40代くらいの男性で恵比寿様みたいな笑顔と体型とオーラをかもし出す人だった。









店長『ん?
私で良かったら話しを聞くよ?』




と恵比寿顔の優しい声で言われたら自然と涙が流れてきた。
彼氏から暴力を受けていること、それまでの経緯、地元を出ようと思っていることを大まかに話をした。
店長はそうか…と聞いていたかと思いきやいきなり









店長『今日はお店も暇だし、これから彼氏さんの家にある実乃果さんの私物を私が一緒に運び出してあげるよ!
そんなこと出来るのって今しかないだろ?』




と言ってくれた。
こんなどうしようもない私に手を差し伸べてくれる店長の存在が温かすぎてまた私は泣いてしまいそして大きく頷いた。
感謝してもし切れないくらいホントに嬉しかった。




大量すぎる荷物をまとめ実家に運び終わるまで2時間くらい掛かった。
私はそのままバイトを上がらせてもらえる事になりそのまま実家に留まる事にした。
さすがにこの状況を親に隠してはおけない。
前の携帯電話を壊してしまった今では彼氏が焦ってここに来ることは目に見えているしちゃんと作戦を立てなくてはいけないと思ったから私はかい摘まんで親に打ち明け、そして彼氏が来たら私はここには来ていないと言って追い返してもらうよう協力を仰いだ。




そしていよいよ彼氏が帰ってくる時刻を迎えた。
仕事から帰ってくるであろう時間からあまり経過しないで玄関のチャイムが鳴った。
訪問者は案の定彼氏で玄関の方で息巻いているのが2階に居る私の部屋まで聞こえた。
応戦しているお母さんの声も次第に大きくなった。


ーーッ!


……怖いよぉ。


た、助けてタカヒロぉぉぉ!!


勿論タカヒロが助けに来るはずはないのだけど一緒に買いにいった携帯電話を抱きしめながらただただ祈った。
そして20分くらいが経ってようやく彼氏は実家を後にした。
親は私に多くのことを聞かなかったけれど彼氏の異常ぶりに娘の危機を悟ってくれたようだった。
私は









実乃果『追い返してくれてありがとう…。
ホント迷惑を掛けてごめんね。
でも次の手は打ってあるから心配しないで。』




とだけ言ってまた自分の部屋に籠った。
次の手とは勿論中原先輩のところに行くという事だった。
もうこの街に居るのは危険すぎる。
明日彼氏の仕事中に先輩が待つ家に行こう!
いつまたここにやって来るかも分からない彼氏の存在に怯えながら私は眠りについた。
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