イケメン王子のおっしゃるままに


□作戦
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彼氏が去った後は何だか不気味なくらい静かだった。
朝になってもまだ家の近くで見張っているのではないか?と不安に駆られた。
いや、あの彼氏なら全くやり兼ねないからそう思った。
今日の彼氏の仕事は昼すぎからの勤務であの人ならどんな事があっても出勤はするだろうと思い、とりあえず一週間分の着替えや貴重品をバッグに詰めこみ部屋で待機をした。
彼氏の仕事が始まって2時間くらいが経ち私はようやく腰を上げた。


荷物を持ちながら物音をたてず玄関の扉をそろりと開け辺りを見渡したけれど彼氏が物陰に隠れているような感じはなかった。
私は『よし!』と意を決めて移動手段である電車を目指して歩き始めた。
けれども私は駅とは逆の方向に向かって歩き出した。
彼氏と鉢合わせがないよう少しでも遠回りをしていけるルートを選んだからだ。
以前彼氏の家を飛び出した私は実家からバイトを往復しようと最短距離であるいつもの道を歩いたら彼氏が待ち伏せをしていて捕まったことがあった。
彼氏に『ここで叫んだら酷い目にあわすからな!!』と脅された私は恐怖に怯えそれに従い拉致られていくも結局暴力を振るわれるという悲惨な体験があったから尚更慎重になった。
今回の作戦だけはどんなことがあっても完璧に成功させなくてはいけない!
私が下手に捕まったら中原先輩も絶対にタダでは済まないからだ。
大袈裟ではなく生死を掛けた作戦が今始まった。




重たい荷物を持ちながらいつもの倍の道のりを早歩きで、でも警戒をしつつただひたすら駅に向かって歩いた。


切符売り場に着いても私は落ち着いてはいられず辺りをキョロキョロと確認しながら怯え震える手で切符を買った。


改札をくぐれば電車はもうすぐ!と思いきや出発したばかりで次の電車はすぐには来ない。
あの顔でいつ怒鳴り込んでくるかも分からない恐怖感に駆られながら息を忍ばせベンチに座って電車を待った。


ようやく電車がホームに入ってきた。
ドアが開く前に最後にホームを見渡したけれども彼氏の姿は見えなかった。
私は電車に乗り込み椅子に座った。
あとはドアが閉まるだけ。






お願い!
早く!早く閉まって!!
私はザンゲをする姿勢で手を合わせ目をつぶって祈った。
バクバクバクバクとすごい勢いで心臓が鳴り響いた。






プルルルル……






プシューッ!
……ガタンゴトン…ガタンゴトン……






ドアが閉まり電車が出発した。






………やった。
やったよぉぉぉ!
ようやく彼から解放されたんだぁ!!




私は逃れられた喜びを噛みしめながらまだ震え握られている手を解き放ちゆっくりと背もたれにもたれ掛かった。
今後のことを考えながら1時間くらい電車に揺られ中原先輩が待つ街まで来た。
駅周辺には小さいながらも商店街があり、そこそこ自然も多く空気が綺麗なところだった。
私は建造物がまばらな道を歩き先輩の住むアパートに向かった。
部屋の前に到着し呼び鈴を鳴らしたら『はーい!』と聞き覚えのある声が中から聞こえた。
ドアが開き先輩の半身が外に出てきたかと思いきや私を確認した後にっこりと微笑みながら









中原『よく来たね。
お帰りなさい(^^)』




と優しく声を掛けてくれた。
私も









実乃果『えへへへ、ただいまぁ(*^^*)』




と照れながら返答した。
先輩はこっちに越してきて次の職を探しながらもシッカリとこの街の探索をしていて子供のように目を輝かせながら色々と楽しく聞かせてくれた。
そこには何だかほんわりと温かい物を感じ『ここから新しい生活が始まるんだなぁ』と思ったら少しずつ生きる気力が湧いてきた。
私はすぐに親に電話をし中原先輩とここで暮らすから心配しないでと告げ衣類など必要な物を送ってほしいと頼んだ。




私が引っ越して2週間が経ち彼に対して最後の作戦を実行することにした。
先輩は予定通り彼氏宛に手紙を作成してくれた。
私にも確認してほしいと言われ読んだそれは私と先輩が一緒には存在していない内容がちゃんと記されていた。
それどころか旨くいっていますか?と私と彼氏を気づかうような文も織り込まれていて完璧な偽り物を作り上げてくれた。
翌日私たちはそれを投函するべくアパートから3時間くらい掛かるところのポストを目指して足を運んだ。
そこは中原先輩が住む体で事前に彼氏に話をしていた仮の土地だった。
消印がそこであれば例え彼氏が先輩を探しに行ったとしても安心というワケだ。
手紙を無事に投函した私たちは互いに顔を見合わせ『ようやく終わったね(^^)』と安堵の表情を浮かべ仲良く手を取りながら帰った。




そしてこの日の夜に私たちは男女の関係をもった。
優しくて明るくて頼りになる先輩の姿に私の心も体もすんなり受け入れることが出来た。




中原先輩とそんな関係になってもタカヒロとのメールは欠かさなかった。
勿論話さなくてもいいような点はひた隠しにしながら、でも報告も兼ねてちょっとした内容でも送信するようにした。
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