アヤカシ恋草紙
□カミノニエ11
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葵は御森と一緒に帰路とは逆方向へ歩いていた。住宅地を少し抜けて、少しした所に大きな家がある。
御森の家に行きたいとせがんだのは葵だった。
大きな門を入ってから、玄関までの石畳は結構な距離がある。まさにお屋敷だった。
どことなくギクシャクした雰囲気が流れる。御森が、首筋をぽりぽりとかいた。
「君は人間…で、いいんだよね」
玄関の鍵を開ける前に、御森が振り返る。
葵は素直に頷いた。
「御森くんは、じゃあ…」
「僕は普通の人間。この土地に古くから住んでる一族だから、普通よりそう言う事に明るいってだけでほんとに普通の人間だよ…どうぞ」
引き違いのガラス戸を、横にガラガラとスライドする。
昔懐かしい家の構造だった。古い家の匂いがして、少し気分が和らいだ。考えてみればこっちに来て普通の人間だと言うクラスメイトとこんなに話すのは初めてかもしれない。
葵は出迎えた御森の母親にぺこりと挨拶をして、御森の部屋に通された。
二階は洋間で普通に高校生らしい御森の部屋の様相に、ほっと息をついた。正直、泰牙の家が洞穴だった衝撃は大きい。
そわそわと出された座布団に、座った。鞄を置いて同じように座布団に座った御森が、ぐいっと伸びをした。
「で、何が聞きたいの?」
「えっ」
考えていた事を言い当てられて、葵が驚く。それを見て御森が苦笑した。
「そりゃわかるでしょ。普段話さないのにいきなり、家に行ってもいいかーなんて。まさか生徒会に入りたくなった訳でもないんだろ?」
「せ…生徒会??」
「うん、僕一応会長なんだけどなあ…」
「生徒会長!?」
全然知らなかった。そう言えば、智己と作っていた資料によく御森の名前を見た気がした。
「そうだよ、葵くん学校生活に興味なさすぎー!まあ、あの人達が濃すぎだから仕方ないけどさ」
あははと御森が笑う。思ったより悪い人じゃなさそうだ。
「その、御森くんはどこまで知ってるの?」
「うーん、僕もあんまり深くは知らないかな。ここが特別な土地で、この学校に人間じゃない生徒と先生が混ざってるって知ってるくらい。泰牙くんも何だか強そうだって事を知ってるくらいで、正体までは知らないしね」
ここ最近、神力だの妖力だの沢山触れて来たせいで、葵自身の察知能力も若干上がっている。御森は普通よりは少し陽の気の強い人間だという事を感じ取った。
泰牙との相性もいいだろう。
ズキリと胸が痛んだが、今はそれどころではない。
「…神子について聞きたいんだ」
「えーっと…うん、確かに引き継ぎの儀式のときはうちの家が取り仕切ってたらしい…けど、もうその風習も絶えたって聞いてるけど?」
「儀式…儀式ってどうやってするの?」
葵はもちろん引き付きの儀式など執り行った覚えはない。どうにかして、神子を継承してしまったのだ。その方法が知りたかった。一つずつ分かる所から、パズルのピースをはめ込んで行くしかない。
御森はうーんと唸りながら、考え込んだ。
「ええっと……正直僕の生まれる前の話しだからなあ……。おじいちゃんに聞いた話しじゃ確か、祠に行って……それで……」
「そ、それで」
御森がもったいつけて、沈黙する。葵は息をのんで続きを待った。
「…………なんだっけ」
「忘れたのかよ!!」
思わず突っ込んでハッとする。御森も驚いたようで、ぱちぱちと葵を見ていた。
「あ、ごめん」
「ふっあははっ」