アヤカシ恋草紙
□カミノニエ7
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葵は校舎の東側にある、小さな図書室の一角にいた。
今日は休日で、学校には殆ど人はいない。
まして、こんなに小さな図書室に休日に好んで来るような人間は他にはいなかった。
泰牙には気が引けるが、狼の事を調べようと思ってここ数日、あちこち調べていたのだ。
普通の狼の事なら、この時代、ネットで調べれば沢山資料が出て来る。だが、泰牙は普通の狼とは違うことは明らかだ。
となれば、妖怪とか聖獣とかそんな類いになるのだろうと踏んだ。そう言った資料は、地元の図書館の方が残っているのでは、と思ったのだ。しかし、めぼしい資料を見つける事は出来なかった。
それで近場を当たろうと思い至ったのだが、こんな小さな図書室では見込みは薄いな、と葵は埃の匂いのする空気を大きくすって吐いた。
この辺りの地域の歴史資料。そういったものが、どこかにあれば。
そう思って探しはじめて一時間。
いまだ収穫が得られずにいた。
「…やっぱない、かなあ」
図書室の一角にしゃがみ込んで、板張りの床に腰を下ろす。
「そもそも、ここどうやって本借りるんだろ」
試しに本を引っ張り出すと、本の頭の方にうっすらと埃が溜まっている。それを簡単に指でスッと払ってページを開くと、最後の所に封筒に入った手書きの貸し出し記録が貼付けてあった。
映画くらいでしか見た事がない。
「……なるほど、どっかに手書きのカードがあるんだな」
借りるかどうかは別として、ひとまず借りる為のカードを探しに立ち上がる。カウンターの方へ近寄った。
「こっちにもあるんだ…」
カウンターの裏側も本棚になっていて、分厚くて小難しそうな本が並んでいる。
どれも持ち出し禁止書を示す、赤くて丸井シールが背の所に貼ってあった。
「あれっ」
そのしっかりとした厚みのある本は殆ど持ち出されないので綺麗に並んでいたのだが、まとまって数冊だけ2センチほど前に出ている箇所があった。
軽い気持ちで直そうと本を押したが、それ以上は奥に入らない。
不思議に思って一冊取り出すと、裏側に何か挟まっていた。
「…資料?ファイルだ」
こんな場所に挟まっているのはおかしい。何にせよ、不審に思って、手前の重い本を一冊ずつ引き出して、それを取り出した。
「……やまがみ伝承……?」
手に取ったそれは、埃など積もってはいなかった。
二穴タイプの簡易的な紙のファイルでパラパラと捲ると、新聞のスクラップや手書きの文字、何かのコピーなどが煩雑に纏められていた。
文字は殆ど走り書きで、人に読ませる為のものではない事がわかる。
「…きったない字…なんてかいてんだ…………あ!」
狼の文字を見つけて、そのメモの切れ端を凝視する。
「……オオカミ、オオガミ………???ヤマイヌ……えーっとおく…なんだ??…イヌ???」
「送りオオカミ」
突然自分以外の声がして、驚いた拍子に持っていたファイルをばさっとしたに落としてしまった。
田舎には不釣り合いな、おしゃれにスーツを着こなした男。
「せ、先生…」
新堂は葵の落としたファイルをひょいと拾い上げる。ファイルと、ひっくり返した本の山をを見比べて、ぽりぽりと頭をかいた。
「まーこんなとこ、よくひっくりかえしたもんだ。第六感ってやつ?」
「…いえ、あの、見ちゃいけないものでした?」
「いんや……まあ、遅かれ早かれこうなる気がしたけどな。もう、知ったんだな、あいつの…正体」
葵がこくりと頷くと、新堂はファイルは戻さず、本だけを棚に戻した。
「ドライブでもするか。送ってってやるよ…ああ、言っておくが俺は送りオオカミじゃあないからな」
ははっと冗談まじりに笑ったが、葵が笑っていないのを見て表情を引き締める。
「すまんすまん、泰牙の事だろ。話してやるよ…多分、お前はこれからのあいつのキーになる」
「キー…」
「あいつを生かすも、殺すも、お前だ」