アヤカシ恋草紙

□カミノニエ5
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葵は次の日、早めに家を出て、森を抜けて学校へ行くことにした。
泰牙に会えるかもしれない。
淡い期待で、弾む心には、足場の悪さなど気にならなかった。

さすがに泰牙の住処まで訪ねる勇気はなく、のろのろと歩いていると祠の辺りにまで出てしまった。
昨日の事もあって、あまり近寄る気にはなれない。

足早にそこを抜けようとしたときだった。

「クスクスクスクス」
「えっ」

何者かの押し殺したような笑い声がする。
辺りを見回すと、木の後ろに人影を見つけた。

「誰?」
「クスクス」
「誰だよ!」

子供の背丈ほどの影は、暗くて、表情までは見えない。それが、かえって葵の不安を煽った。

「カワイソウ ダマサレテル」
「何が!」
「アイツ ワルイヤツ」
「アイツって?!」
「アイツ ハ アイツ オオキナケモノ」
(泰牙の事だ……)
 
葵は直感的にそう確信した。
オオキナケモノ、そう言われてしっくり来る気がした。

「騙されてなんかない」
「ウソ オマエ ナニモシラナイ」
「……っ」
「ナニモシラナイ ナニモシラナイ」
「うるさい、お前には関係ないだろ!」
「アノケモノ オマエ トクベツジャナイ」

ずきりと胸が痛む。泰牙は親切にしてくれる。でもそれは、葵だけではない。

「だから、なんだって言うんだよ。友達だ、特別なんて、別にっ」
「アイツ オマエ 喰ウ ヤサシイノ ソノタメノウソ」
「……!俺の為に死ぬ思いまでしてそんなわけないだろ!お前は誰なんだ!」
「………………ミコ」
「ミコ……ミコって、あっ待てよ!」

黒い子供のような影は、そのままスウッと消えてしまった。
あとに残された葵は、影が消えた場所を睨み付ける。

(ミコ……ミコ……名前、か?)

「……葵」
「わっ?!泰牙!!お、おはよ」

後ろから声をかけられて、振り向くと泰牙が眉をひそめて立っている。

「こんなところで、どうした。昨日の今日で懲りないなお前」

泰牙がチラリと祠の方に視線を投げた。

「ごめん、怒ってる?」
「呆れてる」

サクサクと先に泰牙が歩いていってしまう。葵は慌ててその後を追った。
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