アヤカシ恋草紙

□カミノニエ3
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次の日。昨日、どんな顔をして会えばいいのかと散々悩んでいたが、案外泰牙はいつも通り机で眠っていた。

(変に意識してんのって俺だけか…)

葵が自分の席の椅子を引くと、泰牙は眠そうな目を薄く開けて、少しだけ顔を上げた。

「…おはよう」
「お、おはよ!」

泰牙は柔らかく微笑むとまた目を閉じてしまった。
葵は何故か体温が上がった気がした。

(…なんでちょっと、照れてるんだ俺はっ…!)

葵はぶんぶんと頭を振った。
昨日泰牙との間にあったあれやそれを、ついつい思い出してしまう。逆に平然としている泰牙が凄い。
あれは、事故みたいなものだ。
だからこんなにも泰牙は平然としていられるんだ。
葵はそう思う事にして、この事について考えるのをやめた。




昼休み職員室の隅のソファに座らされ、葵は昨日あったことを新堂に話していた。
流石に全て話せなかったので、キスのところと諸々を省いて話した。

「校内に瘴気か」

思ったより深刻そうな顔で新堂が腕を組んで唸る。

「瘴気には触れなかったか?」
「あ、えっと…はい、多分」

触れたと言えば、諸々の部分を説明しなければならない。
内心どきまぎしながら、誤魔化したが、何とか大丈夫だったようだ。

「瘴気ってのはどんなやつも触れればただでは済まない。だが普通、学校の中に出現することはないんだ。もっと陰鬱な場所や、それこそ大妖怪の住処とかだな…これは少し異常かもしれん」
「俺を狙ってるんですか?」
「確かにお前は寄せやすいな…半端に力をもつようなやつが一番厄介だからな。しかし、それだけじゃなく隠と陽のバランスが崩れて来ているのかもしれない。ここの均衡は土地の神によって守られているんだが…」
「土地の神……」
「ああ、そもそも隠の気の強い土地でな…昔は人柱を立てて鎮めているような場所だったんだ。だがある時、土地の神が立って以来、この土地の均衡はその神に守られている。何らかの理由でその神の力が弱っているのかもしれん。とにかく葵、瘴気かもと思ったら近づかず逃げろよ、いいな。あれは普通太刀打ち出来ない…俺でさえ、巻き込まれたやつを助けるのは至難の業なんだ」
「…そう…なんですか」
「瘴気は倒せない。祓い清めるか、強い神力でもって退けるしかない…陰の性質の奴らですら、瘴気に触れればただでは済まないからな。危ないと思ったら俺や、泰牙に助けを求める事」

葵が頷くと、新堂は満足そうに頷いた。

「あ、それとな」

立ち上がりかけた葵を新堂が手で制した。
再び座り直すと、新堂はぐっと葵の方に顔を近づけて小声で続ける。

「お前、泰牙と一緒にいて何か変わった事はないか?」
「えっ」

昨日の事が過ぎり、どきりと心臓が跳ねる。ばれたのか?そんなはずはない。
あれは必然で人工呼吸のようなもので、直接触れてもないしノーカウントだ。その後のことも無かった事にして忘れる。
そういうことにした。

「いや、と、特には」
「なにか…恐ろしいと思ったり、様子がおかしいと思う事は…?」
「そうか。ならいいんだ。仲良くしてやってくれな」
「…仲良くっていうか、なんか迷惑ばっかかけちゃって…本当申し訳ないっていうか」
「その方がいいさ…それくらい関わった方がいい…」

新堂は意味ありげに、1人で納得して頷いた。
泰牙は人なのか、人でないとしたら何なのか。
結局葵は聞きそびれてしまった。
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