For you!

□無添加100%
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それはあまりにも唐突なことで私の脳は受け入れなかった。

楽しみに取っておいた最後の1つの卵焼きが私の目の前から消えたのだ。

ボールは消えないよとどこかの部長さんが言っていた気がしないでもないが、もしかしたら卵焼きは消えるのかもしれない。私がそんな心にもないことを考えて現実逃避を図っていると

「卵焼きうまいな」

東京の地に似つかわしくない関西弁のイントネーションが上から降ってきた。親方!上から関西弁が!なんて言っている場合ではなく私は卵焼き強奪犯のご尊顔を拝むべく顔を上げた。

『……クソメガネめ』
「いきなりの罵倒は心閉ざすで」

忍足侑士。
違うクラスの彼がなぜここにいるのか。その謎は私と同じクラスの慈郎にあった。

「ほら、慈郎起きいや。跡部が呼んどったで」
『跡部のおつかいごくろーさんですね』
「ほんなら司ちゃんが労わってくれてもええんとちゃう?」
『卵焼き強奪犯にやる優しさはないよ、バファリンでもたくさん飲んでおきなよ』
「そないなことしたら俺死ぬわ!」

カバンの中からピルケースを出してわざわざ忍足のためにバファリンを大量に取り出していると忍足は私の弁当箱から春巻き様をかっさらって一口で食べてしまった。

「あ、これも貰ってええ?あんがとさん」
『ちょっと!勝手に食うなってば!』

おのれ忍足私の貴重な栄養源を!許すまじ。

「おーおーそんな睨まんといてや照れるやろ」
「……おはよー…あれ?忍足だ。なんで俺のクラスに?」
「おはよーさん慈郎。跡部が呼んどるからはよ生徒会室行きいや」
『早く行かないと後が怖いんじゃない?』
「うへー怒られるのは嫌だC〜!ありがと忍足と司〜」

フラフラと慈郎が生徒会室へ向かうのを眺めていると気が付けば弁当箱は空っぽにされていた。

『……? 忍足くん?私の弁当はどこにやったのかな?』

そう聞くと忍足はうさんくさいことこの上ない微笑みをたたえて「俺の腹の中や」と言うので一発殴りたくなった。

あの日以来私の日常に1つ変化が訪れた。
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