* 金木犀 *

□第7章
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たーだーしー、ほら、コレやるから元気出せ。


何ですか?コレ。


福寿草の花びら……を樹脂で固めてキーホルダーにしてみた。


……何で俺に?


なんでって……青城との試合で翔陽と交代してジャンプフローター失敗してかなり落ち込んでただろ?


……そんなハッキリ言わなくても……


だから、次は成功するように 聖夜に手伝ってもらって作ったんだよ、お前の為に。


瀬河と?


あぁ、ほら合宿の時梟谷の赤葦がおんなじの持ってるの見てさ、使えるなって思って。
福寿草って、初春の花で夏には枯れるから今の時期ないんだけど、聖夜って花びら集めるのが趣味だったりしてさ、聞いたら案の定持ってて分けてもらったんだ。
福寿草の花言葉って、幾つかあるんだけど、その中のひとつで「幸福を招く」ってのもあるから、それをお守りがわりに持っとけ。
きっとジャンプフローターすぐに上達するからさ。









私以外にもあなたは誰かの幸せをよく願う人だった。














ーーーーーーーーーー


「山口君!」


倒れる山口を見るなり赤葦は全てを思い出し、慌てて駆け寄った。
抱き起こしてみれば特別怪我もなく、ちゃんと息もあるようなので、一先ず赤葦は胸を撫で下ろす。


「これはあなたの仕業ですか?」


遅れて2人の所までゆっくり歩いてきた女の子に怪訝な視線をやれば、女の子は悲しそうに黙って首を横に振る。


「私の事はどうしても思い出してくれないんだね。」


「思い出すって一体、何を……」


「それは……京治君がちゃんと自分で思い出してくれなきゃ……」






















「可哀想な子だねぇ。」




















「「!」」


嫌な声が赤葦と女の子の間に割って入ってきた。
ハッとして声のした方を見れば、女の子のすぐ後ろに影が見下ろすように立っている。


「お前は……」


赤葦が口を開くが、影は赤葦を無視し、目の前の女の子の顎を掬うように人差し指で軽く持ち上げ、フード越しにニタリと笑って見せる。


「可哀想にねぇ、大好きな人から完全に忘れられるなんて……所詮あなたは雑草なのよ。
あんたが咲かせたこの花畑も……そこにいる奴の為に育てたって何も思い出してはくれなかったわね。
あんたが死んでも尚愛し続けたこいつは無責任な人ね。
自分が苦しみたくないからあんたの記憶を自分の中から全て忘れるなんて。」


「……?」


「うるさい……」


「は?」


「京治君の事を知らないくせに京治君を悪く言わないで!
あなただって、あなたの勝手な都合で京治君達をこんな所に巻き込んだんじゃないの!
あなたこそ何であの人を殺さなきゃいけなかったの!」


「え……」


殺した?


この影がこの世界に巻き込まれた内の誰かを殺したという意味で捉えてもいいのだろうか。


だとすれば……


少なからず赤葦の知ってる誰かがひとり……



















殺されている事になる。





















「うるさいよ、だから何だって言うの。
それこそあんただって私の何を知ってるって言うのよ。
大好きな人を奪われた苦しみなんて知るわけない……私は、あいつに復讐するの、あいつに同じ苦しみを味わわせるの!
だから……」


「!」




だからあいつに関わってる奴らを苦しめるのと、影の視線が赤葦に向けられた。
正確には目深に被ってるフードで顔はわからないものの、影の出す殺気でフード越しに自分に向けられている事はわかる。
影は舌打ちすると、女の子に添えていた手を肩に移動させ、そのまま邪魔だと言わんばかりに女の子をはね除けるとそのまま女の子は意図も簡単に福寿草の中に倒れ込む。
その拍子に、女の子の制服のポケットから何か丸いものが飛び出し、コロコロと赤葦の元まで転がってきた。
何だろうとそれを手に取れば、それはピンポン玉サイズの透明な樹脂で出来たキーホルダーで、中には花畑と同じ福寿草の花びらが2枚閉じ込めた状態にある。


「これは……」













可愛いでしょ?福寿草の花びらを樹脂で固めてキーホルダーにしたの。
京治君にもお揃いであげるね、福寿草の花言葉は幾つかあるんだけど、その内のひとつで、「幸福を招く」ってあるんだよ。


私、京治君には幸せになってもらいたいな。


昔、彼女が息を引き取る直前に彼に残した言葉。


どうして今まで忘れていたのだろう。


あの子は俺の大切な……


「かづきさん?」





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