* 金木犀 *

□第6章
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「そう言えば、あなた達はどうしてこんな偏屈な場所にいるの?」


一通り彼女の愚痴を聞かされた後でそんな質問が投げられる。
今さらなんだと思いながら、その言葉をそのままツーアタックででも返してやりたかったが、止めておいた。


「俺達もほぼ貴女と一緒ですよ。
経緯はわかりませんが、気付いたら学校にいて、影に襲われて、穴みたいなのに落ちて、気付いたらこの巨大迷路、今ここです。」


「ナニソレ、不思議の国のアリス?」


口許に手を当て、ニヤニヤと縁下を小馬鹿にしたような態度で茶化してくるが、不思議の国のアリスならまだどんなに良かったか。
少なくとも影に追われるような恐怖はないだろうし、仮にあっても夢落ちだろう。
そもそも、彼女はバカにしてくるが、恐らく縁下、松川と一緒にいる限り影から襲われる危険性は彼女にもあるだろうと思う。


「てゆーか、それじゃああなた達は何を頼りにこの迷路をさ迷ってたの?」


「え?」


「だって、普通ならそんなワケわかんない事態に巻き込まれたら冷静でいられなくない?」


「あー、まぁ……それはそうかもしれませんが……」


「あんま根拠はねーけど、絶対出られるって信じてるからな。」


「……。」


頭の後ろに手を回し、松川が縁下に対して、横目で「な。」と言えば、それに答えて縁下もコクリと頷く。
松川の言う通り確かな根拠はない。
だけど、何となく……何となくだけど、縁下も助かるって思ってる。


「バッカみたい。」


「え?」


彼女の空気が一変した。


「そんな簡単に信じてるなんて言って、その後で裏切られたらどうすんのよ。
傷付くのは自分なのよ?ましてや、こんな世界でよく簡単に言えるわね。」


「あの……?」


「……ねぇこれ、ここに咲いてる花……何だかわかる?」


脇に咲いてる花を指差し唐突に彼女が聞いてきた。
翌々見てみれば、どっかで見慣れた花のような気はするが、名前までは知らない。
答えようがないので黙っていると、女性がゆっくり口を開いた。


「この花……クロッカスって言うのよ。
花言葉も教えてあげる。」




















意味は……



















私を裏切らないで。



















彼女の声が変わった。
その場の誰の声でもない低い不気味な声が縁下と松川の背筋を一瞬にして凍らせた。
忘れようにも一度聞いたら忘れられないような嫌な声。
ここにいるのかと、縁下と松川が背中合わせに辺りを見回すが姿は見えない。
気のせいかと思ったのもつかの間、2人の視界にチラリと黒いものが掠め、何だろうとそちらに視線を移し息を飲んだ。









さっきまでドレスを着ていた彼女が、あの影になっていた。





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