* 金木犀 *
□番外編1
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聞いた?
最近、この辺の学校で次々生徒が行方を眩ましてるんだって。
2ヶ月前に男子生徒が行方不明になってから、もう何人も姿を消してるって話。
それも行方不明になってるのは
バレー部の人ばかりなんだって。
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夏休みの東京遠征から帰ってすぐに3年の寺嶋翔が行方不明になった。
失踪する理由は特別見当たらなく、警察にも捜索願いを出したが手掛かりが何ひとつとして見付からず捜索はすぐに打ち切られた。
それから2ヶ月して、突然烏野のバレー部の大半が姿を消した。
もちろん、皆が失踪する理由などあるはずもなく1週間が経った。
誰もいない体育館。
何時もならボールが叩き付けられる音や、シューズのスキール音、皆の掛け声が響いてる時間。
しかし、そんな時間は1週間前から未だに訪れていない。
何の音も聞こえてこない体育館の入り口に佇みながら清水は小さく溜め息をついた。
烏野だけならず、聞く話によれば青城、音駒、梟谷の人達も何人か同じ時期に行方不明になっているらしい。
日に日に増すのは心配ばかり。
だけど、今は細かい事は考えないで皆が無事に帰って来てくれればそれだけで十分だ。
「清水さん?」
ふと、後ろから声を掛けられゆっくり振り向いた。
体育館へ続く渡り廊下の向かい側に顧問である武田先生が、紫陽花のような花束とその花を生ける為であろう白い陶器の花瓶を持ちニッコリ笑って立っていた。
「武田先生……」
「彼らがいなくなってしまってから1週間ですね。」
「……無事……でしょうか。」
前向きに考えなければと思うのに、1週間も音沙汰がないとどうしてもネガティブになってしまう。
そんな清水に武田先生がいつも皆に向ける笑顔でニッコリ笑いかける。
「彼らならきっと大丈夫ですよ。
信じて待ちましょう。」
それに、ほら……と持っていた花を清水に見せるとキョトンとした。
そういえば、どうして先生は紫陽花?の花を持ってきたのか。
教室に飾る為ならば体育館に持ってくる必要なんてないし、通り掛かったにしろここの体育館は校舎とは別なので教室に飾る為に持っていて通り掛かったというのはまずないだろう。
「綺麗でしょう、さっき寺嶋君のお母様が持ってきてくれたんですよ。」
「寺嶋の?」
清水は首を傾げた。
確か寺嶋の両親は3年前に離婚したと聞いていた。
ただ、特別仲が悪くて離婚した訳じゃないから気にするなって言ってたし、2つ下の妹とも離ればなれになったとは言っていたが、妹さんとも結構頻繁に会ったりしているらしく、父親が家に帰って来ない時は妹さんの家に泊まりに行くのだとか。
おまけに妹さんは青城の1年でバレー部のマネージャーをやっていて、ついでに及川の彼女だとも言っていた。
4月の練習試合で初めて会った時に話しかけられ、寺嶋の様子を聞かれたのを覚えてる。
その時少し他愛のない会話をして、しっかりした良い子だなって思った。
そういえば、それがきっかけかもしれない。
青城は毎週月曜日は部活は休みらしく、たまに烏野に寺嶋の様子を見に来て皆と仲良くしていた。
偵察か?って思うかもしれないが、寺嶋自体裏のない人間だし、妹を見る限り本当に皆と仲良くしていたから嫌な感じはしなかった。
単純に大好きなお兄ちゃんに会いに来た妹。
ただ、それだけだ。
「寺嶋君のお母様、市内の方でお花屋さん営んでるらしいんですよ。」
「お花屋さん?」
「えぇ、皆がいなくなってしまって、早く見つかります様にってこのお花を持ってきてくれたんです。
綺麗でしょう、ペンタスって言う名前みたいですよ。」
「ペンタス……」
初めて聞く名前。
「さっき青城にもこのお花持って行ったって言っていました。
きっと、2ヶ月前に寺嶋君が行方不明になって、おまけに妹さんも行方不明になって何もしないではいられなかったんでしょうね。」
言いながら武田先生は持っていた花を陽当たりの良いステージに飾り付ける。
体育館に花があると言うのは多少変な感じはあるが、今まで誰もいなく寂しげだった体育館が少し明るくなった気がした。
「そうだ、清水さんは花言葉詳しいですか?」
「え?いえ……」
急な質問に清水は若干戸惑いながらも首を横に振る。
「寺嶋君のお母様がこの花を持って来てくれたのにもちゃんと意味があるみたいですよ。」
「意味ですか?」
「それはね..」
「!」
先生の言葉に清水がうっすら微笑むと、そろそろ帰りましょうかと2人は体育館を出て行った。
*2014102*
花言葉:希望が叶う