* 金木犀 *
□第4章
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「爽やか君はさ、今の状況どう捉える?」
「よくマンガで見るような、今お花畑に逝ってた……みたいな事態じゃないことを願いたい。」
辺り一面、薄紫色のリンドウで敷き詰められた花畑に佇みながら、花巻の質問にどこか遠くを見るような眼差しで菅原が言う。
チャイムが鳴り、暗い中に落ちたかと思えばここにいた。
落ちてからどうなったかは覚えてないが、目が覚めたら一面お花畑だったのだ。
しかもあろうことか、青葉城西の花巻と2人きりらしい。
「校舎の中から外にいるっていうのは多分考えるだけ今は無駄なんだろうな。」
よいしょっと、立ち上がればさわりと、撫で付ける心地好い風に髪を揺らし、雲ひとつない真っ青な空を仰ぐ。
校舎にいた時は暗かったのに、今いる外は真っ昼間のように明るい。
一瞬、校舎の中にどれだけいたのかと考えたのだが、時計を持ってない限り時間もわからないだろう。
時計を持っていた所で正確にわかるかも怪しいし、時間よりも優先にバラバラになった皆が無事なのか心配だ。
遠くを見てもリンドウと青空の……言わば地平線のような境界線しか見えない。
まぁ、川が見えないだけ精神的に救いではある。
リンドウと青空の他といったら花巻だけだし……と、これからどうしようかと相談を持ちかけようとし、座ったままの花巻を見ればパチリと花巻と目が合った。
どうやら、ジッと菅原の事を見ていたようでどうした?と菅原が首を傾げれば花巻が飛んでもないことを口にする。
「お前って可愛い顔してるから花畑似合うよな。」
……………………………………………………。
……?
え、何?どういうこと?
このタイミングでこいつ何言ってんの?
何時あの鉈持った影が現れて、殺されるかもしれない死亡フラグが立ちっぱなしのこんな中で、別の腐ったフラグ立てようとしてんの?
取り敢えず、俺が白旗でも立てればお前のその妙なフラグは下ろしてくれる?
「お……」
「お?」
「俺は年上派だべ!!!!」
「何の話だよ。」
「え……。」
微妙な空気が流れた。
ーーーーーーーーーー
「さて、ここからどうするべ。」
青空とリンドウの地平線を見回しながら菅原が困ったように腰に手を当てる。
「お前、よくもまぁ、さっきは人をホモ扱いしといて、誤解とけたら振り出しに戻るとか……いい根性してるよな。」
どうでもいいがどうしてセッターの奴はこうも自由なタイプが多いのか。
特に及川。
「そう言えばさ……この花も嫌な意味の花言葉あんのかな?」
「ん?……あぁ、あるんじゃねーの?」
菅原の言葉に応え、花巻は足元のリンドウを一本プチリと摘み取った。
生憎、花言葉には詳しくないから花言葉はわからない。
だけど、今まで何かしらの花は絡んでるからきっとこの花もそんな類いなんだろうなっては思う。
どうせ足掻いた所で今はどうする事も出来ないのだから、せめてこの一面の花畑は花言葉を知った時の為に、呪いや復讐、滅亡といったのよりかはもっと軽い感じの花言葉であってもらいたい。
でないと精神的にツラい。
「あれ?」
「何かあったか?」
何かを見つけたらしい菅原に花巻が近寄れば、あれ何だろうと一面リンドウの中、一点を指差した。
どこもかしこも同じ花しか咲いてない。
どれだよと目を凝らせば、離れた所に1輪だけうっすら光るリンドウが目についた。
何かと思い、2人がゆっくり近付いてみると何ら回りと変わらないリンドウ。
ただ、見つけた時みたいにうっすら光っているだけだ。
「何でこれだけ光ってんだ?」
「さぁ?」
取り敢えず、摘み取ってみるか?と花巻が屈んで手を伸ばし、リンドウの茎の部分に指先が触れそうになった所で、「触らないで」と背後から声がした。
ビクッとし、ゆっくり振り向くといつの間に後ろまで来てたのか、知らない女性が立っていた。
背丈は大きくもなく小さくもなく、肩まで伸びた髪の毛は全体的にパーマがかかっている。
リンドウと同じ色したワンピースを着ているせいか多少自分達より大人に見えた。
花巻は屈んでいた体を元に戻すと、女性に視線をやったままポン、と菅原の肩に手を置き口を開いた。
「こいつ……」
「……。」
「良かったな、きっと年上だ。」
「その話は忘れていただけませんか?」
人生最大の汚点でしかないから頼む忘れてくれ、と顔を覆った。
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