* 金木犀 *

□第3章
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いつの間にか、隣にいる。


それが当たり前になっていて……


別れるなんて事……


考えもしなかった。




ーーーーーーーーーー


「おい、大丈夫か?」


ゆさゆさと体を揺らされ、鬱陶しくそれを肩で追い払う研磨。
横向きになっていた体をクルンと逆方向に回転させ、機嫌悪そうに眉を寄せた。


「クロうるさい、寝かせて。」


「誰がクロだよ。
てゆーか、こんな一大事によく寝れるな。」


「っ!!!!」


想像とは違った声に驚いた研磨はガバリと体を起こした。
見れば、クロとは違う人が大丈夫か?と聞いてくる。
研磨が着ている真っ赤なジャージとは逆に、清楚な色の真っ白なジャージ。
確か烏野と同じ宮城の青葉城西高校って言ってた。


名前は確か……


「岩泉さんしかいないの?」


驚いたのは一瞬だけ。
人さえ確認してしまえばすぐにマイペースさを取り戻す研磨だ。
そんな性格に呆れるやら羨ましいやら微妙な気持ちになる岩泉がため息をつく。


「お前……初めて見た時から薄々思ってはいたけどマイペースだよな。」


「……そう?
ところで……ここはどこなの?」


「さぁな……いきなりさっきの教室の床が抜けて、気が付いたらここにいた。
どんな高さから落ちたかは知らねーが、無傷なのはラッキーだったな。」


春高も控えてっし、怪我なんかしてらんねー、と続けると研磨も岩泉さんも十分マイペースじゃんと、心底思った。
例え無傷でもここから出られなきゃ春高も全国もないんだけど、と思うも口に出さない研磨。


面倒は嫌いだ。
それに、その事を岩泉さんに突っ込んだ所で自分も同じ。
今はまだどうしようもない。


取り敢えず、ここはどこなんだろうと辺りを見回すと、辺り一面真っ暗闇。
だけど、不思議と岩泉と研磨、お互いの姿はハッキリ認識できる。
ペタリと研磨が床に手をつけば、ひんやりとした温度が掌を通して全身に伝わって来た。


「……?」


妙な違和感に研磨は首を傾げる。


何となく……何となくだが、懐かしいような、馴染みのあるような、そんな手触り。


「どうした?」


研磨の様子に気付いた岩泉が尋ねる。


「なんかさ……ここ、怖いってゆーより、当たり前の感じしない?」


「は?」


「……何て言ったらいいのかな……忘れない場所ってゆーか、思い出ってゆーか……。」


「思い出?」


「うーんと……あ……日常……かな。」


あれやこれや考えてたどり着いた答えがそれだった。


「日常って……こんな、薄気味わりぃとこが日常なんて……!!」


ハッとした。
真っ暗闇が一変して色のある景色へと姿を変えたのだ。


見慣れた床。


奥の方にあるステージ。


真ん中を隔てるように張られた2つのネット。






























そこは、何日も、何時間も練習している体育館だった。





























唯一異質な存在なのは、ステージの片隅に細い陶器の瓶に飾られているマリーゴールド2輪。





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