子爵令息×成金娘
□縁談
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大正7年(一九一八年)──
舘下佳子は、東京の基督(キリスト)教系女学校に通っていた。
「すまぬ佳子、どうしても断りきれんかった」
休暇で京都の実家に戻った時に、事件は起きた。
「へえ…? 何でっしゃろ?」
「華族の京野さんからのご縁談があるのじゃ!!」
華族の京野さん。佳子の通う女学校には華族令嬢もいて、華族との結婚で退学する女子生徒もいる。
いくら四民平等の世とはいえ、財産では負けないが平民の舘下家が華族の京野家様々の頼みを反故にはできない。
「…どなたさんに?」
「貴女に決まっとるでしょう、佳子はん」
変わり者の祖父もしっかり者の祖母も、スコットランド人の父も自由恋愛主義の母もこれがどれほど重大なことか分かっている。
「その…、お相手の京野さんとは、どのようなお方であらしゃるので? 縁談…と急に言われても、お人柄が分からんようでは受けれまへん」
「失礼ですよ、佳子はん」
古風で長い物には巻かれろという考え方の祖母・礼子の諫める声を止めるのは、母・直子。
「佳子の言う通りやわ。相手がどないか知らんのに結婚なんて出来んわ」
「直子はん、あんたも何言っとんの!」
「おかはんなぁ、当たり前やろ? もし相手がえろう亭主関白やったり妾を住まわしとったらあて(私)はかなんね」
「それとこれとは違います。京野さんはうちのご贔屓さんなんよ。東京からわざわざ来たはるのに、断る訳いかんでしょう」
ここで、礼子と直子の親子喧嘩が勃発する。
「ほうか、では京野さんにそう伝えておこう」
「…おおきにありがとうございます!」
無礼は承知だが、欧米風の考えに理解があり、たった1人の孫娘が可愛い祖父・治彦はそう伝えずにはいられなかった。