LIBRARY:06

◆MISERY
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…相棒兼恋人が、おかしい。
ヘンだと思う。明らかに。
いいや、おかしいという表現は失礼かもしれない。
「いつもと違いすぎる」、コレだ。

ここ数日の彼を見ていて、違和感が凄まじい…のである。

「ねぇ蛮ちゃん、…オレもしかして、なにか怒らせるようなコトした?」
「何だよ、急に」
「その…なんとなく」
ストレートに尋ねてみても、それらしい返答は無し。
…数日前から、どうにも彼がよそよそしい気がするのだ。
何気に銀次から距離を置くし、それまでと態度が違う。

確かに少し忙しくはあったし。
幸いにも仕事の依頼に恵まれた一週間で、落ち着かなかったと言えばそうだけれど。
それにしても、だ。
「…なんか、怒ってたりとか…しない?」
「何も怒ってねぇだろうが、オレに怒鳴られるようなことでもしたのかよ」
「そういう訳じゃ無いんだけど」
明らかにどこか『避けられて』いるのだ。
必要以上に近づかないようになったという感じ。
これが普通の『オトモダチ』な距離だと思えばそうかもしれないが、蛮と銀次はそうではない。

仕事のあいだもそうだった。
大きく支障はないにしろ、どこか彼らしくないところが目立った。
早く片付けてしまうことに集中しているような。
とにかく手間と時間を惜しんで、早期解決優先。
そのあとは、「用事があるから」と、銀次を置いて丸一日以上帰ってこない始末。

…いつも通り、ならば。
銀次がどんなにダメだと言っても迫られる。襲われる。押し倒される。
雰囲気がどうであろうと、場所がどこであろうとも。
強引に流されてしまうことが殆どではあったけれども…決してイヤではなくて。
彼に触れてもらうのは本当に気持ち良くて、全てを委ねてしまいたくなる。
キスもまだまだ慣れないけれども、好き。
しかしこの数日、恋人的な接触は皆無と言っていい。
…だからこそ、何か怒らせるようなことをしてしまったのではないかと。
嫌われるようなことを…してしまったのでは、とか。

──もっと突っ込んで尋ねてみようと思った矢先に、彼は買い物に行く、と出ていってしまった。
「蛮ちゃん…」
明らかに避けられている気がする。
やはり、彼の気分を害するような言動をとってしまったのだろうか。
思い当たるものはたくさんあり過ぎて、どんどん申し訳なってくる始末。

「…嫌われた、とか」
考えれば考えるほどに、苦しくなってきて。
嫌われたのか、それとも飽きられたとか。
恋人と呼べるような関係になっても、銀次はどうしてもあれこれ上手にならなくて。
キスも、それ以上の事も。
つまらない奴だと飽きられてしまっただろうか。
流されるばかりで、なかなか積極的にもなりきれず。
…なんだか、泣きそうになってきた。
部屋の隅に静かに座り込むと、小さく縮こまって。

自分は相当前向きな自信はあるのだけれど、彼の事に関してだけは、何一つ胸を張れるものがない。
誰よりも蛮を好きだと、勝手に思っているだけ。

彼の事で頭がいっぱい。
思いっきり抱き付いてしまいたいくらいに、焦がれて焦がれて。
ここ数日で、自分は明らかに『蛮不足』。

情けないことに、一時間くらいはそうしていただろうか。
…蛮が帰宅するのと同時に、押し倒さんばかりの勢いで飛び付いてしまっていた。
「蛮ちゃーんっ!!」
「あ…あっぶねぇ!!タックルで出迎える奴があるか、吹っ飛ばす気か!」
難しいことを考え込むのは本当に苦手なのだ。
これ以上溜め込んだところで、自分にはどうしようもないと察したので。
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