LIBRARY:06

◆RATIONAL
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理性って何だ。
それは果たして、今この場に必要なものであるだろうか、否。
自制とは何か。
今この場に…以下略。
冷静である必要があるのか。
視界に入らなかったフリをして流して良いものか、いやいや、それは違うだろう。

──寝室入口で立ち尽くしたまま、無表情での葛藤。
色々予想外過ぎて、表情が消えたくらいだ。
蛮がひとりで問答を繰り返しているのは、それはそれは深くも無い理由が有る訳で。

…つい1時間ほど前のことに遡るのだが。
もう10月に入るというのに、今日はとにかく暑い日であった。
その上、少々立て込んだ奪還依頼が舞い込み、強面のオジサマ方の手厚い歓迎で更に暑く熱い思いをして。
仮眠もとれないままドタバタしては、結構な時間を割いて。
とくに銀次なんかは無駄な動きが多いものだから、さぞ汗だくになったことだろう。

ひととおり片付けて、やっと先程帰宅できた。
しかし蛮の方は所用を思い出し、少しだけ出掛けることにした。
すぐ戻る、と。
「…留守番しとけとは言ったけどよ」
確かに彼は大人しく留守番していたようだ。…しかし。
今この光景を目の当たりにして、蛮にどうしろというのか。

蛮が帰宅したとき、部屋の中が妙に静かで。
普段なら「蛮ちゃんおかえりー」と寄ってくる奴も、姿が見えない。
寝室の扉が中途半端に開いていたので覗いてみれば。
相棒が、それは気持ち良さそうに寝息をたてていたのだ。
…寝ていたことに文句を言うつもりはない。疲れているのはお互い様だし。
問題にしたいのはそこではないのだ。
ベッド上の銀次の格好にこそ物申す。説明を求めたい。

──…腰のあたりにタオル1枚を巻き付けただけの…格好。
いかにも『さっきシャワーを浴びたばかりです』という様で、髪も肌も僅かに濡れている。
湯で火照った身体。
ふわりと香るボディーソープの匂い。
蛮の気配に気付きもしないのか、それはもう無防備に寝入っているし。

「据え膳…より出来過ぎだろ」
食っていいのか。これは悩む前に食して下さいという意向?
カモがネギを背負ってきた上に、鍋と調味料を携えてきたくらいに酷い。
いっそ、何の罠だと疑いたくもなる。相手が銀次でなければ。
分かっているとも。コイツは何も考えてはいないだろう。狙ってなどいない。
シャワー浴びたらスッキリして気持ちいいなー。
ちょっとこのまま涼んじゃおうかなー。
寝るつもりじゃないけど少しだけ横になっちゃおうかなー。
…十中八九、このパターンであろう。

風邪を引くから起きろ、と。善意いっぱい優しくしてやる自分ではない。
そっと毛布でも掛けて、このまま寝かせてやる思い遣りも持ち合わせておりません。
それらの選択肢は瞬時に抹消。

「…いただきます」
恭しく発しておいて、そのまま圧し掛かる。
ここまで来てもなお目を覚まさないのは多少問題だと思うが、まぁ今のところは大目に見てやるとしよう。…後で叱ってやる。

──という訳で、美味しく美味しく味わっている最中。
さすがに起き出した銀次が、まずはこの状況のモンダイを訴え。
こちらが逆に言い返してやれば、何やら言い訳的なものを喚き始める。
『何故こんな格好で寝ていたのか』という件に関しては、ほぼこちらの予想通りで、補足訂正する箇所も無しでいいんじゃないか?という程。
「お、オレ…!!ちょっとウトウトしちゃっただけで!寝てただけ!!それだけー!」
「それが悪いって言ってんだ、大人しく食われろ」

寝惚け半分に慌てる銀次をさらりとしっかり組み敷いて。
…快感に弱い身体は、愛撫にも簡単に反応して蕩けていく。
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