LIBRARY:06

◆DEEP
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とある奪還の依頼の副産物…的なもので、超豪華・プライベートビーチ付き別荘にお泊り出来るという有難い話。
依頼人が、これまた超のつくお金持ちのお家のお嬢様ということもあり、別荘の立派さは想像以上。
断る理由も無いし、銀次としては、ひっそり楽しみにしていたりもして。
しかし、いざ別荘で過ごしてみれば。
…最早、美観も海もなにも関係無いような、いつもと同じような調子になっていた訳で。
挙句には、そのお嬢様に、アレな行為に耽っているときの声を聞かれてしまう始末。…情けない。

しかしせっかく海まで来たのに、遊んでいかないっていうのは残念過ぎるよなぁと。
…後々思い返してみれば、「早く帰っておけばよかった」になるのだけれど。

──青い海。白い砂浜。
本当にこんなきれいな場所があるんだな、と感激するばかり。
「ばーんちゃんッ!早くー!」
急かす銀次に、蛮の気分はまるで遠足の引率教師か保父さんである。
『お仕事でも、せっかく海まで来たんだし、遊びたいなー』と真っ直ぐな瞳で見詰められては、あぁそうですかと流すことも出来ず。
仕方なく付き合ってやることになるのは、ある程度諦めている。
「気持ちいいよー!どうせなら泳ぐ準備もしてくれば良かったかなぁ…」
「いくらでも泳いで来いよ、溺れたら放置するからな」

さすがはお金持ちのプライベートビーチである。
パラソル等を立てる必要もなく、すでに浜辺には寛ぎ用の設備が建っているし。
至れり尽くせり、整いまくり。
そこで普段着のままゆったりとしていた蛮は、ただ遠目に銀次を眺めるのみ。
「蛮ちゃん?見てるだけじゃつまんないでしょ」
「別に」
そうでもない、と思えるのが不思議だ。

「美堂さん、天野さん。暑くありませんか?こちらをどうぞ」
いつの間にか蛮の後方に立っていたのは、依頼人兼・こちらの別荘の持ち主サマである。玲子お嬢様。
外見のみで印象を述べるなら、『深窓の令嬢』『清楚系』な女性。
先日、蛮と銀次の関係をハッキリしっかり認識してしまったらしい後から、どうにも様子がおかしい。
敬遠するならまだしも、どこか生温い視線を感じるような。
何となく2人の雰囲気を邪魔してしまったと思ったのか、彼女は持ってきた差し入れだけをテーブルに置いて、すぐに別荘内へ駆けていってしまった。

彼女が用意してくれたものは、豪勢な器に盛られたアイスやシャーベット、よく冷えた飲料その他諸々。
とけてしまう前に戴こうと銀次に声を掛けるよりも前に、彼は既に戻ってきていた。
…さすが、食べ物の事となると鋭い、素早い。
「わーい!!そういえばココに出てくる前に、玲子さんに冷たいモノの好みを聞かれたんだよね。オレ何でも好きですって言っちゃった」
「…好み、ねぇ」
テーブルの上のものを眺めてみれば、成程、オコサマが好きそうなラインナップである。
彼女はどうやら銀次のことがお気に入りらしいので、先日(蛮的には)軽く牽制してやったつもりではいたのだけれど。
あまり効いていないのだろうか。
そして、少し考え込んでいるあいだに、銀次の手はスプーンの動きを止めることがない。

「おいしい!こっちもおいしいー!!」
さっきからしゃくしゃくモグモグと絶え間なくシャーベットを頬張る銀次に、さすがの蛮も呆れる。
アイスもドリンクもすべて飲み物感覚で消えていく。
「…落ち着いて食えっての。カラダ冷えるぞ」
しかし銀次にはこの手の説教は無駄のようで。それどころか。
「あーっ!蛮ちゃんズルい!オレのと味違うやつじゃん!」
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