LIBRARY:06

◆SUMMER
1ページ/4ページ

「わぁー!スゴいよ蛮ちゃんっ!!海が見えるー!」
「わかったわかった…。ガキみてェに騒ぐなっての」
別荘のベランダから見える景色に、銀次は本来の目的も忘れはしゃいでいた。
…当然、『別荘』なんて奪還屋たちのものではない。依頼人の持ち物だ。
海の見渡せる、これまた豪華な洋風の建物。
「あんま乗り出すなって、危ねぇぞ」
「はーい」

この別荘は、都内にも豪邸を構えるという、とあるお金持ちの持ち物。依頼人は、その娘・玲子お嬢様である。
…娘の20歳の誕生日にこの別荘をポンと与えたと言う親も凄まじいが。
嫌味に思いつつも、依頼料が破格でもあったし。加えて、仕事の内容自体もさほど込み入ったものでもなく。
難易度的には、蛮と銀次にかかれば正直なところ楽勝。まぁ、銀次の多少のドジはあったものの。
更に更に、プライベートビーチ付きの超豪華別荘へのお泊り権までセットときては…。

とりあえずひと仕事終えて、残るは簡単な後始末のみ。
それらは後日に回すことにして、現在は優雅にセレブ気分といったところか。
現在この別荘には、『家主』であるそのお嬢様と、別荘の管理人やら使用人やらが数名のみらしい。

しかし、静かに浸ることも出来やしない。
「わ、わぁあっ!!」
「銀次!?」
急いでベランダ端に駆け出し、今にも落ちそうになっていた銀次を抱きとめた。
「言ってるそばから何してんだ!お前はッ!!」
「ごめんなさぁい…」
「…2階から落ちたくらいじゃ何ともねぇか、お前の場合」
ひとのことを何だと思っているんですかという視線で返されるが、実際そうだろうと。

背後から銀次を抱えながら、今日の出来事を色々と思い返していた。
奪還の依頼自体は、本当に拍子抜けなほどにスムーズにいったと思う。
しかし、蛮が気になったのはそれよりもむしろ…。
「そういえば…あの玲子お嬢様。昼間随分とお前にベッタリだったよなぁ…」
「…え…?」
ぼそり、と。低い声が響く。
「お前の事がお気に入りみたいじゃねぇか」
「そんな…茶化さないでよ、蛮ちゃん…」
実際、彼女は必要以上に銀次にくっついていたような気がする。
銀次は、全く意識していなかったようだが…。

──海が見えると言っても、夕暮れも近く、次第に青から赤へ、黒へ。
その海の色と同じ様に、蛮の瞳の色も濃くなっていった気がして…。

蛮が、銀次を抱いたまま部屋の方へと引き戻した。
それと同時に、やっと手を放したのだけれど。
…銀次は、なんとなくベランダの方へ後退してしまう。
「…何してんだ」
「いや、そのですねー…なんかこう、ちょっと身のキケンを感じたっていうか…」
階下へ落下するよりも、ある意味危険な感覚が。
いつの間にか更に数歩下がって、窓の側で風に揺れていたカーテンを握りしめているほどに。

「なんっかムカついた」
「え?なに…」
銀次の口元が、やや引き攣る。
『どうやら蛮の機嫌が悪いらしい』ことは察したが、その原因が分からない。
それは無いだろうとは思ったが、先程の会話の流れから…。
「まさか依頼人さんに嫉妬しちゃったとか?なーんて…」
「…だったらどうする」
笑い飛ばそうとしたはずの銀次の表情が、がちりと固まった。
蛮の目は、とても笑い流せるようなものでは無かったからだ。
「し、質問を質問でかえすのはよくないと思いますー…」
「ほぉ、言いたいことはそれだけか」

カーテンへ身を半分隠すように逃げ腰になるものの、その程度で何か状況が好転する訳でも無く。
…いや、むしろ悪化か。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ