LIBRARY:01

◆NIGHT
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「はぁー!つっかれたぁ!!」
部屋に戻るなり、銀次はベッドに倒れ込んだ。
フカフカな心地に、思わずうっとりしてしまう。
「おい銀次、寝るんだったら着替えとけよ?シワになるじゃねーか」
「あ、そっか…でもごめん、もーちょっと…」

ここは某高級ホテルの一室。自分達には相当縁の無い場所である。
当初はこの部屋を見ただけで、あまりのゴージャスさにテンションが上がった銀次がはしゃぎまわっていたが、さすがに今日の疲れには勝てなかった。
着慣れない衣装にも負けてしまったのか。
2人の服装にしても、スーツにネクタイ。整容バッチリ。
というのもここ数日、奪還依頼の関係でこのホテルにこもりきりだったのだ。
相手が相手、場所が場所なだけにこんな堅苦しいもので…。

「あー窮屈だったぁ…。でも、お仕事も終わったし明日には帰れるんだよね…」
部屋代・スーツ代などは全て依頼人の負担。加えてコーディネイトはヘヴン。
『アンタ達に任せたらコワイからね』との配慮だったらしいが。
後半からは、ただの着せ替えごっこになっていたような気がしないでもない。

スーツを見立ててもらったときの事は、今でもよく思い出せる。
「ん!完ッ璧ね」
「ヘヴンさん、裾の方とかどうかな?ちょっと動きづらいけど…」
「文句いわないの、ギャラいいんでしょ!?」
副音声、アタシの仲介料もステキでしょ。って聞こえる。
お金のことを言われると、どうも萎縮してしまう…。衣装のお値段を聞くと更に動けなくなりそうなので、あえて尋ねない。
銀次は鏡の前の自分の姿を見ながら、普段とは違う自分の格好に、ちょっとニヤついたり眉を顰めたり。
…でもどうも似合ってない気がする。明らかに、着せられている感。
一方、横の蛮をチラリと見ると。彼は何も文句無しに着こなしていた。
全身、髪から爪先まで整っている感じ。スゴい似合っていて…ドキドキしてしまうくらい。
雰囲気が違うどころじゃない。格好良過ぎる。

銀次の視線に気がついた蛮が、フッと笑いかけて言った。
「なんだ、ホレ直したか?」
「な…なッ!!」
ちょっぴり図星なんですけど。
思い切りカオが赤くなっているのが、鏡に映る。
「わっ…『若シャチョー』って感じ!!それか『やりてのえーぎょーまん』!』
「なんだそりゃ…」
照れまくったお陰で、よくわからない事を口走ってしまった。
眼鏡はフレームレスとハーフフレームどちらが似合う?なんて聞かれたりもしたけど、正直どっちもイイです、なんて。
…あぁもう、ブランドとか良くわからなくても、着こなす蛮ちゃんが格好良いからいいんだ!とか心の中で叫んだり。
あの時のドキドキ感は、中々忘れられなくて…。

「──次、銀次…。寝るのか?オイ」
蛮の声に揺り起こされた。
どうやら、数日前のことを思い出しながらウトウトしてしまったみたいだ。
「ん、あ…。ごめん、着替え、る…」
寝惚け全開で返事をし、なんとか身体を起こそうとした時。
「手伝ってやろうか」
ゆっくりと蛮の声が降ってきて、銀次のカラダはベッドに沈み込んだ。
彼が、長い指を器用に使って自分のネクタイを解いていった。銀次は結び方も解き方も知らないのだ、コレは。
まだ寝惚けた頭では、その仕草さえ格好良いなぁ…なんて、呆けたことを考えていた。
「それ、どぉするの…?」
嫌な予感さえ察知するのが遅れるほどに。
やっと目も頭も冴えてきた頃には、逃げ場なし。
「決まってるだろ、こーする」
キュッ…と。蛮が自分のネクタイで銀次の両手首を括りあげてしまうのだ。その感覚で一気に目が覚めた。
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