LIBRARY:01

◆PRESENT
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「なぁ、銀次」
「ふぇ?なぁに、蛮ちゃん」
だいぶ日差しも暖かく感じられるようになった4月。
今月に入ったあたりから、蛮はずっと一つの事に悩んでいた。
…しかし一人で考え続けても答えは未だ思いつかず。
「もう少しで、お前の誕生日だろ?」
遠回しな言い方は銀次に通用しない事を知っているから。
ストレートに。銀次の顔を覗き込むようにして、言った。
「──何か欲しいのあンなら、言えよ。そんな高くねぇモンなら考えてやるから」

…銀次は少し驚いたような顔をして。
そしてわずかに目を潤ませて、嬉しそうに笑うのだ。
「蛮ちゃん、そのことで最近かんがえごと、してたの?」
「…何だよ、くだらねぇって言いたそうだな」
銀次にとっても蛮にとっても、大事な日なのだ。
たとえその日が正確な『誕生日』でないかもしれなくとも、銀次が此処に在る事を祝ってやりたいと思う。
こんな感情、自分でも初めてで持て余し気味でもあるけれど。
「ううん…!嬉しいよ、うれしい…っ!蛮ちゃん!!」
力一杯首を横に振ると、銀次は蛮に抱き付いた。
いつもより少し強めに腕を回してくるほど。
「大袈裟だっての、そんなにたいしたモンやれねーぞ?」
「だって…オレの誕生日なんて覚えててくれたんでしょ!?うれしいんだもん」
こんな反応を返されただけで、こちらも戸惑ってしまう。
好きなヤツの記念日くらい覚えているのが普通だろ、…なんて、甘ったるい台詞を吐きそうになって止めた。

銀次も、本当に嬉しかったのだ。
最近蛮が何か一人で考え込む様子を何度か見ていて、心配でさえあったから。それが自分のためだったなんて聞いて。
背にゆっくり蛮の腕が回され、その温かさにじわりと涙が溢れそうになってしまう。
「えっと、あのね、オレ…」
「何だよ」
「オレ、なにもいらないよ、いらないから…。だからお願いがあるんだ。19日は、ずーっと一緒に居て欲しい。朝から夜まで、ずっと」
…恥かしいから、蛮の顔を見ては言えないけれど。
このひとの時間をぜんぶ貰えたらどんなに幸せだろう。そう思ったから。

──当然、蛮がそんな誘いを断る筈も無かった。
よく考えれば、銀次が無理難題なモノを強請るなんて有り得ないことだったと思うに至るのだけれど。

そして、前日・深夜。
「へへ、あと1分で日付変わっちゃうねっ」
銀次は、時計の秒針がカチコチ音を立てる度に、ドキドキしながらそれを眺めていた。
「ホントにいいのか?オレと一緒に居たいだけだなんて、そんなのいつもとあんまり変わんねぇだろ」
「ううん、いいの!きもちの問題だもん。こんなに楽しい誕生日なんて初めてだし、蛮ちゃんがそんな風に言ってくれるだけもすっごく嬉しい」
横にあった枕をぎゅっと抱き締めながら、銀次はベッド上で転がって微笑むばかり。
時計と蛮とを、何度か交互に視線を注いで。
そんなことをしているうちに、60秒などあっという間だ。
カチッ…、と。時計の針が真上で重なった瞬間、銀次は飛び起きて。
抱いていた枕を放し、歩み寄って来た蛮に抱き付いた。
「おめでとうっ、蛮ちゃん!」
「逆だろーが、『おめでとう』はお前」
「あ、そっか。でも蛮ちゃんが居てくれるから、いいの!」

…全く、どうしてこうも素直にモノが言えるのか。
ガラにも無く全力で照れてしまいそうな蛮も、ここまでされれば応じないわけにはいかない。

「ホラ銀次、『プレゼント』欲しいだろ」
「え…ふぁ…!」
唇が塞がれた事に気付いたのは、ベッドに押し倒されている事に気付いたのとほぼ同時。
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