LIBRARY:01

□◆FESTIVAL
1ページ/5ページ

「とりっくおあとりーとっ!!」
「…は?」
銀次が、黒づくめの服を身にまとって飛び込んできた。
冬越えの為に借りたばかりの部屋で、銀次は異様なほどにはしゃいでいて。
「はろいんだよ蛮ちゃん!」
「違うっつの、『ハロウィン』だ」

どこからこんな話を仕入れてきたかは知らないが、どうも本人はやる気満々のようだ。
ご丁寧に衣装まで。
…残念ながら、何の仮装なのかは全く理解できない。ただ黒くてモコモコした服装なだけ。暖かそうではあるが。
「あ、蛮ちゃんのもあるよ?絶対似合うと思うんだよね、これ」
「いらねー」
オレのとは違うのだけど、と。
ニコニコと差し出されたところで、誰が素直に着るものか。

その衣装はドコから持ってきたのだとか。
ハロウィンなんてネタを誰から聞いたのだとか。
お前の衣装はいったい何の仮装なのか不明なんだよ、とか。
…疑問点はまだまだあるが、あえて尋ねない。
その辺りを聞いてしまったら、蛮も巻き込まれることが目に見えているからだ。聞いたら負けだ。
さりげなくその場から逃げようとしたが、銀次がしっかり掴まってくる。
「だ・め!蛮ちゃんもコッチ着てよ、絶対似合うってば。オレが保証しますっ」
「ンなモン要らねぇから離せ。全力で断る」

ダメだダメだ、面倒に関わるな。
…コイツがどんなに目を潤ませようと。
オネダリ全開でも。
甘えモードに入っていても。

「それじゃ、お菓子」
「はぁ!?」
「…おかし、もらえる日なんだよね?いっぱい食べてもいい日なんだよね?」
ビミョーな期待に満ちた目をしてやがる。
あぁ、本命はそっちか。何歳児だ、お前は。
そもそも、この行事の内容を理解していない気がする。

「えっと、『お菓子くれなきゃいたずらしちゃうよ』でしょ?」
「オレに菓子の持ち合わせが有るとでも?」
冷静に切りかえしたら、一段と残念そうな顔になって。一気に消沈するのがわかる。
…しまいには、しゅんと捨てられた仔犬のような目をするようになって。
コッチが苛めているような気分になってきてしまう。
何故。どうして。
蛮はただ、面倒な展開を回避したいだけなのに。

あんまり銀次が悲しそうに落ち込むものだから…仕方なく、折れた。
「…どっちかだぞ」
「ふぁ?」
「菓子か!仮装か!面倒臭ェから片方だけな!」
半分ヤケ気味に答えてやれば、途端に銀次のテンションが戻っていく。
構ってもらえたのが余程嬉しかったのか、背景に花が見えそうなくらいの喜びよう。
結局、銀次自身ロクに理解していない行事に付き合う羽目になった。

ところで何の衣装を持ってきたんだと問えば。
「えっとね、じゃーん!!ドラキュラさんだって」
「うっわ、ベタだな…」
ちなみに銀次は何の仮装のつもりなんだと問えば。
「…よくわかんないのです」
「はぁ?自分で選んだんだろ?」
「そうなんだけどね、何となく格好イイやつの格好イイとこばっかり集めて着てみたら…ヘンだよって夏実ちゃん達に言われて」
最初は黒猫から始まったはずが、それにマントが付いて帽子が付いて、幽霊・妖精・ゾンビのアイテムが混じった末に散々なことになったらしい。
蛮の想像すら及ばず、ただ『そりゃヒド過ぎる』と呟くに留まった。
とりあえず、ハロウィンのネタやら衣装たちの出所は分かったので納得した。

「だから、他のは置いてきちゃった」
結局、黒服だけが残ったということで。
「でも、蛮ちゃんにはちゃんとドラキュラ衣装一式借りてきたんだー」
見せ付けるように突き出してくるが、まだ着ると決めたわけではない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ