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◆RAIN
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「ねぇ、一緒に奪還屋やろうよ!ねっ!?」
…そいつの一言が、コレだった。
考えられるか?数日前に殺し合いしてた奴相手に、満面の笑みでこんな事言うなんて。
当然、即答でお断りだ。

「…また来たのかよ」
「美堂くんがオッケーしてくれるまで何度でも来るよ!」
更にこれだから。
蛮の部屋の前までやってきて、毎日毎日この会話の繰り返し。
扉を開ければやっぱり人懐っこい笑顔。
あの『雷帝』と同一人物だなんて…むしろソッチの方が怪しくなってくる。
「ね、考え直してくれた?奪還屋さんやりたくなった?」
「絶ッ対ェ御免だ!いいから帰れ!そんでもって諦めろ!!」

何度言ってもコイツには効かない。
この話を持ち掛けられた途端に断固拒否したのに。有り得ないだろ。
全く懲りずにやって来るのだ。この天野銀次というヤツは。
「ね、ね?美堂くんとならきっと楽しいよ?やろう?」
「テメーが楽しかろうがオレは迷惑だっての」

毎日こんな風だから、オチオチ油断してもいられない。
出掛けようものなら、玄関先で堂々待ち伏せ。
ホント、いい加減に…。
「いい加減、お巡りさんにでも補導して貰うか?ガキ」
タバコの火を近づけて牽制してみたりもする。
「ガキって…同い年でしょ?タバコも駄目なんだっ、それに美堂くんは優しいから、ひどい事しないよ?」

…なに?
思わず硬直した上に眩暈がした。
今、物凄く妙な台詞を投下された気がする…。

「あ、美堂くん固まった」
固まったどころじゃない。凄まじく聞き慣れない言葉を掛けられて。
さらりとこんなことを口にする事も信じられない。
「誰が…優しいって?」
「美堂くん」

…その回答を聞いた瞬間、カラダが勝手に動いていたような気がする。
銀次の胸倉を掴むと、玄関先から部屋の入り口まで銀次を引き入れた。
正確には、力任せに引っ張り込んだ。目一杯、コイツに怒鳴る為に。
「い、痛いっ…美堂くん!?」
「てめェ…っ!今度オレの前でふざけた事言ってみやがれ…あの時の続きだ」
「みど、…くん」
ほぼ本気の『殺意』を向けていた。

何でそんな泣きそうな顔するんだよ。
悪いのはお前だろ?お前が、馬鹿なことを言うから。
すぐにでも殴り付けたい衝動を霧散させる表情。

「美堂くん…?」
「馴れ馴れしく呼んでんじゃねェよ!…とっとと消えろ」
今度は突き飛ばすように外へ放ると、冷たく扉を施錠してしまう。
何でだよ、何で。
こっちが胸を痛ませなくてはいけないのか。
迷惑しているのは蛮だ。罪悪感なんて感じる必要なんて微塵もないだろうが。

「美堂くん!!ごめんなさい、オレ気に触る事…っ」
扉の向こうで銀次の必死の声が聞こえた。
ダメだ、聞くな。聞くな…。

──コイツは、オレの中の何かを狂わせる。

少しずつ、何かを強引に溶かされていくような、奇妙な感覚が気持ち悪い。
扉にチェーンロックまで掛けて、頑なに心まで閉ざそうとしているのに。腹立たしい程に自分の中に侵食してくる…。
扉に背を預けると、蛮はその場に崩れ落ちた。
銀次の足音が遠ざかってゆく事を、ぼんやりと認識しながら。
距離が広がれば安堵する。息苦しさもおさまってゆく…。

「痛い、なぁ…」
マンションの外観をちらりと一瞥し、銀次は呟いた。
引っ張られたシャツがちょっと伸びている。
ぶつけた背中も僅かに痛んだけれど、もっと痛いのは…違うところ。
「美堂くん、優しいんだよ…?何回お願いしに行っても『二度と来るな』なんて言わないんだ。居留守使えばいいのに、ちゃんといつも出てきてくれるし…」
それが、嬉しかったのに。
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