LIBRARY:01

◆RAIN
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決して『好かれている』なんて自惚れていたわけじゃないけれど。
今度こそ、本当に嫌われてしまったかもしれない…。

視界が歪むのが涙の所為だと気付いたのは、しばらく後。
彼の怒った表情が頭から離れずに、胸が締め付けられるばかりで。
…その場から足が離れてくれるまで、潤む目元を押さえることしかできなかった。

──そして翌日、蛮は目的も無く街へ繰り出した。
「そろそろ…行くか」
理由はただ1つ。銀次に会わない為。

「夜中までフラフラしてりゃ、さすがに帰ンだろ」
銀次に会うのが怖かった。
今日アイツに会えば、自分が壊れてしまう気がしたから。
誰も入ってくるな。…この黒い感情を乱さないでくれ。
強い拒絶だけが、自分の心を守る。

「蛮、珍しいじゃない!アンタがこんなトコで遊んでるなんて」
「いい仕事があるんだよ」
「ちょっとコレ、試してみてくれないか」
適当に時間を持て余して。
声を掛けてくる奴らと遊んでやって。
裏路地に足を運べば、ストレス解消の為の雑魚は溢れてる。
「なに、時間なんか気にしてやがんだよ、オレは…」
…1分1秒が、恐ろしい程に永く感じられる。
こんなのは初めてで、戸惑いを抑え切れない。
夕刻からは、静かに雨が降り出していた。
次第に大降りになり、止む気配は皆無で。蛮を更に安堵させた。
銀次を遠ざける理由のひとつになればいい。
日付が変わった頃合いを見て帰路についた。
「…雨、か」
一段と強まる雨に、暗く曇った空をぼんやりと見上げた。
重々しい黒雲と、大粒になってゆく雨雫。まるで今の自分の心情を投影しているようで。
傘も大して役には立たなかったが、もうどうでもいい。

マンションの入口で雫を払うと、自分の愚行に自嘲した。
──無意識に、銀次の姿を捜している。
居るわけが無い。待っているわけが無い。普段だって、日中にしか顔を出さないのだ。
「バカか、オレは」
何となく、これで銀次はもう二度と此処へ来ない気がした。…それなのに。
居るわけが無い、はずなのに。

「おかえりなさい、美堂くん」

…寒さに震えた声。
入口の陰で佇んでいた人物。
いつもの様に笑みを零しているが、上手く笑えていない。
ずぶ濡れの衣服を纏って、目を真っ赤に腫らせているのだ。

「ば…っ…、馬鹿!お前いつから…!!」
持っていた傘を投げ出すと、銀次の方へ走り寄った。
「たぶんお昼過ぎ…くらいかな?へへ、真っ暗になっちゃったね…」
約半日も、ここで?
雨が降ってきてしまって困った、と笑うから。
「何で中に居ねぇんだよ!?」
思わず、『銀次が来る前提』な調子で叫んでしまった。
銀次の行動も、自分の発言も、本当に信じられない。
「他の住人さんに迷惑かなって…。さすがにこんな時間までずっと部屋の前でウロウロしてたら、あとで美堂くんにも…」
「傘買うとか、帰るとか、頭使えよ…」
「か、買いに行こうと思ったんだけど、ね?そのあいだに、美堂くんが帰ってくるかもしれないから…って、思っ…」

銀次が、言葉を濁した。
蛮がとても険しい顔をしているからだ。
…雨に混じって、銀次の頬を温かいものが伝う。
「ご、ごめんなさい!!やっぱり迷惑だったよね!?帰るね!ごめんね美堂くん、ごめんなさい…!」
捲し立てるように謝罪の声を上げ。
即座に踵を返す銀次の腕を、蛮の手が掴む。
「美堂くん…?」
蛮も、咄嗟の行動だった。身体が勝手に、彼を行かせまいと動いたのだ。
言葉が詰まったように、何と言ったらいいのか分からなくて。
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