LIBRARY:01

◆DEPEND
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「ま、一種の都市伝説みたいなものだけどなぁ…」
「へぇー、そんなの知りませんでしたぁ!」
「マスターってホントに物知りなんですねぇ」
…波児の話に感嘆の声を漏らす女性陣を眺めつつ、蛮は小さく溜息をついた。
まぁ、店内でのいつもの光景だ。

気に食わないのは、その『女性陣』の中に、ちゃっかり銀次が収まっているということだ。
波児の話に、声を上げるどころか。
感激(?)のあまり、ぽかんと呆けた顔を晒している。
「…間抜け顔」
「さりげなく悪口が聞こえてます、蛮ちゃん」

──他の客が来るでもなく、相変わらずのメンバーが顔を連ねる。
そして本日、『ハロウィン』というものにあやかり、店内にそれらしい飾りまで用意したのは夏実たち女性陣。
彼女達のそんな姿を見て、マスター様が突然話を始めたのだ。
…ハロウィンにまつわる、いかにも…な話を。

「だってすごいよ蛮ちゃん!はろうぃん、ってそんなにこわいものだったんだね!?」
「…なんか違うだろ」
今度は目を輝かせはじめた銀次と、やっと話を一区切り終えた波児の顔。
それらを、胡散臭いモノでも見るような視線で睨んでみたり。
「日本でいう10月31日に、『ハロウィンの悪魔』が憑依するんだ…。国内に必ず数人現れるらしい。霊的な感覚に強い奴や、特殊な力を秘めた人間を好んで憑りついて、悪の限りを尽くすという…」
ちょっと凄んで、波児が先程の話をまとめた。
蛮は正直全く興味が無かったものだから、完全に聞き流していたが。
「その辺にしとけって…こいつ、本気で信じるから」
コーヒーを軽く喉に流し込みながら、またチラリと銀次の方を見る。
…目が輝いているし。遠足を明日に控えた幼稚園児のような。
「も、もしかしたら、オレたちの誰かにものりうつっちゃうかもだよ!?」
「…ハイハイ、そーですねー」
否定するのにも疲れた蛮は、いい加減に相槌をうった。

大体何なのだ、字面からしてアヤシさ満点ではないか。
都市伝説云々のレベルじゃないだろう。
ただ、それがどんなに胡散臭かろうが、冗談だろうが嘘だろうが。はたまた事実だろうが。
天野銀次というヤツは鵜呑みにしてしまうのだ。
オマケに、波児の話し方も巧いらしいのが困る。
「ホラ、…戻るぞ銀次」
「えー!?続きがききたいっ、とりつかれたひとはどうなっちゃうの!?」
渋る銀次と、断固として帰りたい蛮。
今日は、修理に出してあるスバルを引き取りに行きたいのだ。
銀次を置いていってもいいが、新しく借りた部屋の場所を、まだ彼は覚えていないのだ。迷子必至。
次は銀次を探して引き取りに行くハメになる。

「おねがい蛮ちゃん、もーちょっとだけ!ねっ?」
…人の服をしっかり掴んでおいて、おねがい、も無いだろうに。
結局、承諾せざるを得なかった。
波児が蛮に2杯目のコーヒーを奢ってくれることで、銀次は『あともうちょっと』を獲得した。
「それで?それで?『はろうぃんのあくま』、にとりつかれちゃったらどんな風になっちゃうの?」
「私達も聞きたいですー」
…夏実たちまで話に乗ってきてしまう始末。
それから、『ちょっと』どころか、更に怪しい話になっていった様子。
完全に帰るタイミングを失った蛮と、盛り上がり続ける一団。

大人しく待ってやるだけ優しいじゃないか自分、と褒め称えてやりたくなる。
少し離れた席に座りながら、時間を気にして時計を見るのもやめた。
あぁ本当に面倒なことになった…と、蛮が煙草に手を伸ばしかけたときだった。

──ガタン。
…突然、銀次が席から立ち上がったのだ。椅子が倒れ、独特の音が部屋に響いた。
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