僕の選んだ人は・・・
□離れた手はつなげないのです!
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「雫さん!!」
「泉田・・・」
一人追いかけてきた泉田に僕は驚いて立ち止まる。
同学年なのに、僕にまで敬語を使う泉田。
筋肉馬鹿で、正直山岳よりも不思議チャンだと僕は思う。
まぁ筋肉が好きな人には理解できるんだろうけど。
僕は筋肉を特別愛しているわけではないからなぁ・・・。
真面目な話だと分かっていても、どうしても笑って逃げてしまうのは僕の悪い癖だ。
小さいころも、親がどんなに怒っていても爆笑したフリをしていれば、いつの間にか親も笑ってたから。
「どーしたの?何かあった?」
全てを無かったことにしたいんだ。
僕はなかったことにしながら、その傷とも言えないような焦燥感を持っている。
そうしないと、この気持ちの整理をどう付ければ良いか分からないんだ。
「あの・・・雫さんは僕や皆さんのこと・・・信用できませんか?」
「へ?」
思わず変な声が出る。
はぐらかしたのに、そんなの関係ないとでも言いたげにまっすぐに聞いてくるから。
誰だってそうだ。
何事もなかったように笑えば、戸惑ってそれ以上は何も聞いてこないのに。
「何のこと?そんなことよりも。ほら!練習始めないと!朝練終わっちゃうよ?」
僕は何答えずに、泉田の背中を両手で押して部室に戻った。
そこにはもう誰も居なくて、泉田と二人きりだ。
特別泉田を意識しているわけじゃないけど、さっきのことがあったから二人きりという状況に居たたまれなくなった僕は、部室を出た。
「言えるわけ・・・ないじゃん」
"信用してないんじゃない。信用できないんだ"
信用することが・・・怖いなんて。
無理だ。
荷が重たすぎる。
何も考えたくない。
泉田が追いかけてまで話すきっかけをくれたのに。
僕は自分の弱さから、彼の差し出した手を無視どころか振り払ったんだ。
もう戻れない。
例えどんなに頑張っても、どんなに縋っても、このまま堕ちていくだけだ。
「ごめんなさい」
心のこもらない謝罪が人を傷つけた罪悪感よりも重く心を揺さぶった。
誰も僕を許さないで。僕を信用しないで。
荒北に出合わなければ良かったなんて、思わせないで。産まれてこなければ良かったと思わせて。
僕を後悔で殺して欲しい。
「もう・・・誰も傷つかないで」
こんな自分勝手な僕を許さないで。