天帝と愉快なキセキ達
□此処から先、立入禁止。
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「赤ちん〜、ぎゅってして良い?」
夏を感じさせる風が、開いた窓から入ってくる。
最近、紫原は良くそんな事を口にする様になった。
「...すまない、遠慮してくれないか。」
「え〜。」
以前、紫原に一回だけ"ぎゅっ"とされた事がある。
その時に全身に駆け巡った鳥肌と寒気は今でも忘れない。
それは、紫原に嫌悪感を抱いている様なものだが、実際はそうではない。紫原にされたから、という訳ではない...はずだ。
何故確信が持てないのか、それは紫原以外に"ぎゅっ"とされた事が無いからだ。
「やだ。ぎゅってしたい。」
いつもは渋々諦めてくれるのだが、今回はそうとはいかなかった。
「...紫原、」
「知ってるよ。赤ちん、そういうの嫌いだよね。」
「なら尚更止めて欲しい。」
「ん〜...。赤ちんはさ、怖いんだと思うんだ。」
「怖い?」
「うん。ぎゅってされるのが。」
怖い、...怖いのか?
頭の中で反復する。
そうしたら、もしかしたら紫原の言う通りなのかもしれないと思い始めてきた。
ぎゅっ
「―――っ!?」
ぞわぞわっ
不意に、紫原の温もりを感じた。
「ごめん待てなかった。」
「や、めろ...紫原っ」
暑さのせいでは無い汗が額に滲む。
逃げ出そうとしても圧倒的な体格さによってそれは叶わなかった。
「...離してくれ...!」
「大丈夫だよ赤ちん。きっと慣れる。」
紫原は離す気は毛頭無いらしい。
今の俺に出来る事は、震えそうな体を必死で抑え込みながら、ただひたすら耐える事しかなかった。
いつか慣れてしまう時が来るのだろうか、と――――恐怖しながら。
ぶわり。生温い風が肌を撫でた。
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今回は後書き無しです。
此処まで目を通して頂き、ありがとうございました。