神獣は鬼神のもの
□その仲は犬猿とも恋人とも言う
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「おい偶蹄類」
「誰が偶蹄類だ朴念人」
「貴方は蹄が偶数個あるでしょう。」
「知ってるわ!偶蹄類の説明なんて求めてないよ!」
「ギャーギャー五月蝿いですね白豚さん。家畜は大人しく食肉になるまで待ってなさい。」
「白豚じゃない白澤!何で吉兆の印のありがたい神獣が喰われなきゃならないのさ!」
「ありがたい神獣だからこそ食すのですよ。」
「そんな恐ろしい風習聞いたこと無い!」
嗚呼、また始まった。
桃太郎は静かに溜め息を吐く。
二人の喧嘩なんて日常茶飯事だが、今日も店が破壊されるかもしれないと思うと自然と溜め息が出る。
......まあ、今日は出入り口の扉が壊されなかっただけ良いか...。
「...で、桃太郎さん、何時出来上がりますかね薬は。コイツと顔を合わせる時間は出来るだけ短くしたいんですよね。」
「それは此方の台詞だよヒヨッ子〜!」
「えーっと...もう煮え立ったので冷やしてもうすぐっすよ。」
そんな二人の会話に自分が自然に参加しているというのも驚きだ。
...というか、前々から思ってたけど...。
なんで鬼灯さんはわざわざ店に来るのだろう。
そんなに会いたくないのなら、薬は部下に持って来させるとか、郵送してもらうとか、色々方法はあるのに。
それなのに、どんなに仕事が忙しくても必ず店にやって来る鬼灯さん。
そして鬼灯さんが来るであろう時間帯には、必ず店で待ち構えている白澤様。
「...本当はお互い好きで好きで仕方ないだろ(ボソッ」
「桃タロー君何か言った?」
「いっ、いえ!何も!」
「ふーん。」
...危なかった...!もし今の独り言を聞かれてたら確実に俺は(特に鬼灯さんに)殺されただろう。
ほっと胸を撫で下ろしていると、鬼灯さんから何やら黒いオーラを感じて恐る恐る顔を見た。
「...桃太郎さん、先程の発言訂正して貰っても宜しいですかねぇ...?」
聞かれてたーーーーーーっっ!!!
「え?やっぱさっき桃タロー君何か言ってたんじゃん。何言ってたの?」
一番近くに居た白澤様にも聞き取れなかったのに、何で鬼灯さんにははっきりと聞こえたんだよ...!
地獄耳め...。
「先程桃太郎さんはお互い好きで好きで仕方ないだろと発言をしました。お互いというのはこの場からして私と白澤さんのことでしょうが...何故私が白澤さんを好きだと思わなければならないのですかね桃太郎さん。」
「そんなこと言ってたの桃タロー君!その発言は心底心外だね!こんな常闇の鬼神なんて大嫌いだよ!」
「奇遇ですね私も大嫌いですよ白澤さん。」
お互い睨み合う二人。
また喧嘩が始まってしまった。
また溜め息を吐くと、白澤さんが「あ」と呟いた。
「...どうしました?」
「おい鬼灯、また徹夜しただろ。さっきまで気付かなかったけど、お前隈酷いぞ。」
「...嗚呼、徹夜はしましたね。」
「全く...その様子じゃ折角疲労回復の薬渡してやったってのに飲んでないみたいだし。ていうか徹夜止めろって僕言ったよね?」
「薬はあまり飲まない性分なので。それに徹夜は仕方がありません。あの阿呆が仕事をしてくれませんから。」
「〜〜っだーー!!いいか鬼灯、今日は休め!寝ろ!速攻寝ろ!!」
「じゃあ白澤さんも休まれたらどうですか。」
「は?」
「白澤さんもお疲れでしょう。昨日より顔色が悪い。和漢薬のレポートでもやってましたか?」
「...うん、まあ、そうだけど...。」
「なら貴方も休むべきですね。他人の体調より自分の体調を心配なさい。」
...うん。
ちょっと待て。
何お互いの体調心配し合ってんのてか何で体調悪いって気付けるの俺さっぱり気付かなかったけどおい犬猿の仲じゃねーじゃんよやっぱり仲良いんじゃねぇかよ!!
「兎に角薬やるから今此処で飲め分かったか。」
「......ハァ...白澤さんも此処で飲んでくれるのなら私も飲みますよ。どうせ貴方も薬飲まない気でしょう。」
「うぐっ...。......あーもう!分かったよ!僕も飲めば鬼灯も飲むんだな!」
「ええ。」
「ちょっと待ってろ!持ってくるから。」
おい何だよその会話バカップルか!!!!
冷まし終わった頼まれていた薬を袋に包んでいた俺だったが、二人の会話を聞いてて俺は心の中で突っ込まずにはいられなかった。
「...ホラ。持ってきたよ。」
白澤様は大きめの袋の中から二つ薬を取り出し、その内のひとつを口に含んで水と一緒に飲み込んだ。
「僕は飲んだよ。さあ鬼灯も飲め。」
「...はい。」
鬼灯さんは返事はしたものの、俯いて中々飲もうとはしない。
「...?」
訝しんだ白澤様は鬼灯さんの薬が握られている手を見る。
良く見るとその手は震えていた。
「鬼灯さん...?」
「えっと、鬼灯?」
「っ、何でもありません。飲みますよ。」
鬼灯さんは何時もより幾分険しい表情で薬を飲み下した。
「え、マジでどうした鬼灯?」
「...何でもないと言ってるでしょう。気にしないで下さい。」
「いや、気になるから!」
鬼灯さんの肩を揺さぶる白澤様。
そりゃそうだ。だって自分が作った薬を手を震わせてあんなに険しい顔して飲まれたら、誰だって気にする。
「え、ちょ、何、鬼灯って薬苦手なの?和漢薬の研究とかしてんのに?」
「......苦手...かもしれませんね。どちらかというと拒絶の意味に近いですが。」
鬼灯さんの声色が幾分弱いものだったので、俺は驚いた。
それは俺だけでは無かった様で。
「...何で?」
真面目なトーンで聞き返す白澤様。
「...今話せと?」
「うん。嫌かもしれないけど今後の為にも聞かせて欲しい。」
鬼灯さんは一呼吸置いて、ゆっくりと話始めた。
「......大分前のことですが...現世に視察で行った時に人間に薬を飲まされたことがありまして。まあその当時は薬なんていう立派なものではなく、草を磨り潰したものでしたが...。」
「うん。」
「その経緯は...その時の私は徹夜明けで体調が良くなかったので、知り合った人間に飲めば治るからと言われ無理矢理飲まされたのです。現世の人間には手出しができなかったので私はされるがままでした。」
「...うん。」
「その薬には人間の致死量を越えた量の毒が入ってました。所謂毒草だったのです。鬼の身体には半分程の威力しかなかったので大事には至りませんでしたが、非常に苦しかったことを覚えています。」
「...」
「そういうことがありましたので、情けない話ですが、未だに薬を飲もうとすると拒絶反応が起こります。...さっきのはそのせいです。その失敗があったので、私は和漢薬について詳しくなる為に勉強しています。」
鬼灯さんは喋り終わった後、気まずそうに目を逸らして苦々しい表情を浮かべている。
俺はその話を聞いて、唖然とするしかなかった。
「鬼灯、何でそれをもっと早くに言ってくれなかったのさ。それを知っていれば、僕だって薬を強要しないのに...。」
白澤様は哀しそうだった。
「...言ったところで何になりますか。どのみち克服しなければいけないものです。白澤さんが気にするのは見当違いですよ。」
「僕は...医者じゃないけど、色々な人の命を預かってる仕事をしている。薬は一歩間違えれば毒になるからね。...ねえ鬼灯、飲み薬が無理なら違う薬に変えて処方が出来るよ。だから、ほんと無理すんなって。意地張って強がんなよ...。」
「...白澤さん...。」
...あのー。
良い雰囲気になってますが...。
俺が居ること、忘れてません?お二方。
「...すみません白澤さん。」
「謝るなんてらしくないよ、鬼灯。」
嗚呼駄目だラブラブモード全開だどうしよう俺。
「...っちょ、ちょっと俺、薬草採りに行きますね...。」
一先ずこの空気から逃れたかった俺は、全速力で店から飛び出した。
「......あれ犬猿の仲ってより、恋人の仲だよな...。」
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はい。
何で後半シリアス展開になってしまったんでしょうか。
ギャグでいくつもりだったのに...可笑しい。
オチが見当たらなくて無理矢理終わらせてしまいました(-_-;)
そして更新遅すぎ&シリーズ放置しすぎて申し訳ないです...。