ATTRACTION

□夜に輝く貴方は
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 そして明後日、予定通り2回目の会議が執り行われた。まずは発案者から、最後に5人のプリマジを行うことが改めて宣言された。
「なので、まずはそこまでのセトリを作りましょう」
「あたしとあいつのデュオが最初として、他どうする?」
ストリート風の少女がクールな少女とのデュオを、先日と同じように一番手に提案する。場は沈黙し、異論はないようだ。
 そのまま、静寂が続く。明らかにあまね以外の全員が当惑しながら、『あまねがどう提言するか』を待っていた。
 あまねもまた黙ったまま、皆の様子を窺っている。ぱたのが淹れた紅茶を飲みながら。
 そんな空気に耐えかねたぱたのが、あまねの耳のそばでこそりと囁いた。
「あまね様。きっとみんな、あまね様がどうしたいか聞きたいんですだ」
「私が? 私は、皆さんがしたいことを尊重したいです」
「あ、あまね様……」
ぱたのはあまねに心酔しているが、続く言葉に詰まっているようだった。
 静寂を破る、氷のような声が響いた。
「皆はこの場で最も力を持つ貴様の言葉を待っている。そんなことが分からないはずがあるまい」
クールな少女だ。同じ学年だからか、あまねに物怖じせず話しかけられるようだ。
「そうなのですか? しかし、私がこの場で最も力を持っているとは思いません」
「冗談を抜かすな、後続の人間に理解を示しているつもりか? 謙虚な『つもり』は傲慢に見えるぞ」
「…………」
クールな少女の切り裂くような言葉に、あまねは押し黙った。細く整った眉尻が、ほんの少し下がる。
 ────こういった流れになった時、もうしばらく待てば、責任のある誰かが口を開いて、なんだかんだで話は次に進んでいく。そんな推測が、***の今までの人生経験で、導き出せていた。
 だから、***はこのまま待っていてもよかった。
 だがその推測の中の雰囲気は、あまりにも重苦しい。
──────だから***は、『愛しき女の子達が苦しまないため』に、この氷点下の中に、足を突っ込むことを選んだ。
「まあまあ! 先輩方! 最初が決まったんですし、まずは次のプリマジを決めましょうよ!」
「貴様……、あまねに選ばれた……」
「私としては、私達の3人プリマジがいいんじゃないかと思うんです! 手慣れたお二方のデュオでしっかり場をあたためていただいた上で、ノれる感じで盛り上げていこうかなって!」
「でもそしたら、先輩の個別プリマジが最初に終わっちゃう……」
***の提案に、発案者の少女がおずおずと指摘する。ストリート風の少女は最後の5人プリマジ以外2つしか予定を組んでいないため、最初に集中させるとしばらく出番が空いてしまうのだ。
「あたしはそれでもいいよ!」
「先輩……」
「それじゃあ、一旦はそれで進めていきましょう! 後で調整が必要だと思ったら、その時にまた変える感じで!」
 場の主導権を奪い取った***は、さらに続ける。
(正直キツいけど、こうなったら、『この次』までやるしかない!)
ビリビリと殺気立つクールな少女に、***は向き直った。
「その次は、先輩とあまね先輩にデュオをしていただいてもいいですか? 万が一、私がミスして盛り下げてたらいけないんで……」
 冷えた汗が、***の頬を伝う。
 刹那、クールな少女が物凄い剣幕で目の前にやってきた。
「お前ッ、お前の指命を受けるなどと……ッ」
「っ…………」
氷山のような目が***を突き刺す。
 その時、ストリート風の少女が声をかけた。
「あたしもいいと思うなー。温度差? ってかギャップ? 出て、××先輩目当ての人も満足できそうじゃない?」
「…………」
クールな少女が、髪を靡かせて振り返る。ある程度仲を深めた相手の言葉なら、聞き入れる価値があると判断したようだ。
「……その仮定で進めることを許可してやる」
クールな少女は席に戻ると、腕を組んで深く座った。
「じゃあ、良い感じにまとまってきたし! 発案者さんにバトン戻そうかな」
 さっくりそう言って、発案者の少女の様子を確認した。くりくりした瞳は先程と違って、『大丈夫』と言っているようだ。
(俺、足震えてないよね)
 ***も席に戻る。その足元はどこか、自分のものである感覚を欠いた。
 再び注目を一手に浴びる発案者の少女。個性豊かな面々が、皆彼女を見ている。
「あとは、私とあまね様のデュオと、***先輩とあまね様のデュオなんですけど……。***先輩のデュオを最後にしてもらってもいいですか?」
「!」
場を回した時点で、覚悟していた申し出が来た。年齢的にも、今立たされている立場的にも、断る──そして、断れる理由は無い。
「いいよ!」
だから***がするのは、最大限に明るい承諾のみ。
「演出上の都合が悪くなったら、また予定を変えましょう。言いにくかったら私のマジスタにDMでも大丈夫です!」
発案者の少女が付け加えた言葉は、彼女自身が言われたかったものかもしれない。
「では予定が決まったので、次はコーデを、決められるところは決めていきます!」
「あまね先輩、私達のデュオはタキシードのカラバリって解釈でいいですか?」
 ***はどこか現実味を欠いた感覚のまま、勢いであまねに声をかける。
「ええ、それで構いません」
ぱたのを抱いたあまねの返事は、どこか張りがあった。
「あたし達はいつものレディスタとビビアビでいい?」
「それで仔細無いだろう」
 レディアントスターにビビッドアビス。まさにストリート風の少女とクールな少女のデュオにふさわしい選択だ。
「あまね、貴様とのデュオはフライングスカイと決めている。異論は無いな?」
「ええ、どうぞ」
「私はターコイズ、貴様はブラックだ」
 クールな少女は一方的に決める。だがそのコーデチョイスは的確だった。
「わ、私は……ええーっと……」
 発案者の少女も、流れに乗ろうと懸命に頭を働かせる。
「ゆっくりで大丈夫だよー」
「うん、後でバランス見て決めてもいいんだし」
3人でプリマジをする予定の、ストリート風の少女と***が声をかけた。
「じゃあお言葉に甘えて……。先にマーチングの担当カラーを決めましょう」
 大トリに行う5人のプリマジ。ここでのコーデは特に気を配る必要がある。
「あまねにじゅんぱくは避けるべきだ。ブリティッシュもな。ただでさえ出番が多いのだから」
クールな少女が真っ先に口を開いた。じゅんぱくのマーチングプリンス、そしてマーチングブリティッシュは、どちらも他の3色と配色のパターンが異なるため、5人で着た時に目立つ。
「なんならじゅんぱくはお前が着たらどうだ? 立案者」
「わっ、私ですか!?」
饒舌になったクールな少女が、発案者の少女を指さす。
「たしかに!」
「ピュアな雰囲気が似合うと思うよ!」
2人の褒める言葉に加え、あまねも頷く。発案者の少女は沸騰したように顔を熱くした。
「じゃ、じゃあ……着させてもらいます!!」
純朴でフレッシュな反応に、先輩陣が湧き立った。
「……で、ブリティッシュはお前が着たらどうだ」
「えーあたしー?」
 今度はストリート風の少女が指された。確かにほんの少しのギャップを伴って、良い采配に見えた。
「でもあたしは……」
「弥生ひなが着ると思えないコーデは着たくない、だろう。ああ、分かっている」
「ちょっとなんで分かってんのに言ったのー!」
この瞬間、場は『ひな(先輩)に憧れてるんだぁ』という微笑ましい気持ちで一つになった。
「なら、ブリティッシュは私が着る」
「でも***先輩も似合うんじゃ……」
「私ブリティッシュ揃ってないから大丈夫」
「決定だな。残りはグリーン、パープル、ブルーだ」
「うーん、グリーン……」
***は唸りながらチラとストリート風の少女を見る。少女から、ウインクが返ってきた。
「グリーンはあまね先輩でよくない? 私も***ちゃんも、グリーンはあんまり似合わないし」
***も頷いて同意する。
「分かりました。なら私は、グリーンを着させていただきます」
「いいんですか!? エレメンツコーデを所持する皆さんとのプリマジと同じカラーを……!」
「ええ。大丈夫ですよ」
あまねは微笑む。
「で、残りはパープルとブルー」
「ひな先輩に憧れてるなら、パープル着たいんじゃないですか?」
「うぇっ! いやいや、コーデっていうのはもっと他のことを考えて決めないと……」
「そうだ、いつか弥生ひなとプリマジをする時のために、同じ色にするのはメッシュだけに留めているものなあ! 代わりにオレンジが映えるようにメインのヘアカラーはブルーにしてなあ! 故に、貴様が着るべきブルーだ!」
「ちょっともうやだやだ、さっきから全部言わないでよ!」
クールな少女がストリート風の少女の全てを言いきった。ストリート風の少女も、ここまでくると言葉とは裏腹に、どこかすっきりしている。
「……ということだ、お前は残ったパープルでも着ていろ」
「──はい」
 クールな少女が***を見下す。だがそれを見る***の瞳は、さっきとは異なる温度になっていた。
(パープルは既にプリマジで披露してる、画像もマジスタに載せた。昨日みるきとはにたんとブルーを試着してみたら、『悪くないけど、本人じゃなくてコーデに視線が集まる』って感想になった。この人、まさか全部見抜いた上で……)
自分と同じ『演技』なのか、それとも不器用な優しさか。クールな少女の態度は、***に新たな風を吹き込んだ。
「残りは好きに決めろ」
マーチングの担当色を決め終わると、クールな少女は興味を無くしたように背もたれに体重を預けた。
「では、残る2つのプリマジのコーデは後日決めるとして……。仮の日程です! 今後2週間ほど練習して、2週間後の日曜日に本番を予定してます! 基本は休みの日を中心に練習する予定ですが、時間がありそうなら平日もやっていきたいです! スケジュール調整は私がやります!」
「スケジュールの調整って大変だろうから、何かあったら手伝うよ」
「ありがとうございます!」
***が真っ先に発案者を心配する。そこに、今まで動かなかった人物が動いた。
「スケジュールを調整するなら、空いている時間を書き出してみましょう。ぱたのさん、模造紙とペンを出していただけますか?」
「『マナマナ』!」
あまねだ。ぱたのは容易く言われたものを出し、「はいですだ」とあまねに渡した。
「ありがとうございます。では、各曜日の空いている時間を塗ってください」
あまねは大きな模造紙に、縦の欄に各自の名前、横の欄に時刻の区切りをつけた表を、曜日ごとにさっと描くと、それぞれに色の違うペンを渡した。マーチングの担当色に合わせてある。
「驚いたな、貴様は今回徹底的に動くつもりがないのだと思っていたぞ」
「いえ、皆さんが『やりたいこと』を思案してくれましたから。こういった段取りは私の役目です」
「…………」
 ***は呆気に取られる。絵面だけなら、非効率な方法に見える。だがその実、一目でスケジュールを把握しやすい。
(最近は通ってる学校の演劇を演出することが多いらしいし、そこでノウハウが培われてるんだろうな……)
クールな少女とはまた違うあまねの牽引力に、***は年長者の強味を感じた。
「できましたね。ではぱたのさん、皆さんの分を複製していただけますか?」
「お任せください! 『マナマナ』!」
あっという間に、場に全員のスケジュールが伝達された。
「必要そうなら、魔法で縮小していただくと持ち運びに便利かもしれません」
なるほど、と次々にマナマナが魔法をかけていく。
(やっべっ!)
***が内心叫んだ。はにたんを連れてきていない。
「…………」
気付かれないよう、***は素早く小さく折り畳んだ。
 あまねは、改めて発案者の少女を見る。
「日によっては、変更等もあるかもしれません。そういった場合の連絡先を、お任せしてもよろしいですか?」
「はっ、はいっ!」
「他に、質問や意見のある方は?」
とりあえずは皆、満足そうだ。
「では、夜も更けてきましたから。ひとまず今日は解散としましょう。何かあれば気軽に連絡をください。気を付けてお帰りくださいね」
最後はすっかりあまねの空気に飲まれて、皆しずしずと帰路についた。
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