ATTRACTION

□夜に輝く貴方は
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 翌日の放課後、自室で勉強道具を広げたものの、***は何も手につかないでいた。
(すげー……やだ)
 今回***が何よりも避けようと思っていたのは、あまねとのデュオ《サシ》であった。それは自信的にも、立場的にも。絶対に、自分よりも目玉になる組み合わせがあるからだ。
 それが、よりにもよって本人から提案されてしまった。あまねから申し出た以上、演出や順番は他のどのデュオよりも優先して決定されるに違いない。こうなったら、***は『幸運にも皇あまねに選ばれた存在』を演じきるしかない。
(性格わりー……とも言えないんだよ、あまね先輩はみるきと違って、意図して他のプリマジスタを陥れるようなことしないって知られてるんだから……)
 数ヶ月前に行われたプリマジスタ達の強化合宿によって、みるきの本性や、あまねの抜けているところはある程度発信された。あまねは、他人を貶めるためにあんな申し出をするような人柄ではない。
(だから困るんだけど……)
頭を抱える***に、スマホの通知音が届いた。見ると、みるきからマジスタのDMだ。
『昨日の報告まだかお!!』
なんだかその文面に安心して、***は返事代わりに電話をかける。
「もしもしー?」
「……もしもし」
 スピーカー越しに聞こえるみるきの声は、いつもの甘さがありながら、あからさまに不機嫌な色をしている。
「ごめん昨日の結果すぐ伝えなくて」
「まったくだお! こっちにマナマナがいるのちゃんと自覚してるお?!」
「ごめんね……今まで悩んでて」
「どうしたお?」
「あまね先輩にデュオしたいって言われた……」
 一瞬、みるきは頭上に『?』を浮かべる。
「……? ***ちゃんがあまね様とデュオすることになったお?」
「うん、そう」
「別に問題ないお」
「だから、相手から『デュオしたい』って言われたのが問題なの!」
 再度みるきは膠着し、頭に宇宙が広がる感覚に襲われる。
「えぇっ、えええぇぇーーーーー!?」
「…………」
耳元に炸裂する絶叫に、***は黙って聞き入るしかない。
「あっ……あまね様の方から!?」
「そーなの!」
***は自暴自棄気味に答える。
「ちょっ……ちょっと***ちゃん、その日の最前出演者権限で確保できないかお!?」
「それは頑張ってもいいけど……。てか、デュオ売りの相手としてどうしたらいいか教えてくんない!?」
「それは……」
 みるきが次の句に詰まったところで、はにたんが起きて机の上に歩いてきた。みるきは察して、スピーカーモードに変えてスマホを置く。
「あまねとのデュオは、どのコーデを着ることになったはに?」
「タキシードブラック。相手から直々の指定だよ。確かに俺のタキシードブラック姿は最高にかっこいいけどさぁ〜〜!」
「それが言えるなら十分はに」
「まってまって、見捨てないで!」
「見捨ててないはに。***は自分の良さをちゃんと理解できてるんだから、あとはやることやればいいはに」
「はにたん……」
 ***の中にはまだ得体の知れない不安感もあったが、はにたんの言葉には何か強い説得力があった。
「あ〜〜イヤリングどーしよ。した方がいい?」
「今回はあまね様とのデュオだお……***ちゃんがブラックってことは、あまね様はきっとホワイトを着るお? なら、あまね様はフェイスペイントの分、顔周りの情報が多いから、バランスとるためにつけてもいいと思うお」
「あー……でもどれがいい? なんか俺が持ってる中だとどれも……って感じせん?」
「自分から言い始めてなんなんだお。そんなに心配なら、みるきとおそろいのリトルベアリボンつけるといいお」
半笑いでみるきは提案する。だが、タキシードブラックは全体に水色の装飾が施されているため、あながちミスマッチでもなかった。
「で、他は?」
「俺以外の出演者も、2人あまね先輩とデュオすることにはなってる。あとは他にも、発案者の子とストリート系の先輩と3人でプリマジやる予定も立てた」
「上出来はに」
「でも俺以外2人とも、あまね先輩が『言われたらお受けいたします』って言ってから、相手の方からデュオしようって申し込んだんだよ。俺より実力ある人すら……。あ〜、こんなん嫉妬で刺されるよ〜……」
「なら、立場に見合うプリマジで黙らせるはに」
「そうだお。というか、同じエレメンツコーデを持ってるみるきとデュオしてる事実は、実力の担保になってないのかお!?」
はにたんに激励され、みるきに怒られ、***の表情が少しずつ晴れていく。
「……たしかに」
「だから! ウジウジする暇があったら今やるべきことをやるお!」
「うん……」
「他には、何が決まったはに?」
「次回の会議、明後日だって。そこでもっと詳しい予定立てるみたい」
「分かったはに。何かあったらまたすぐ連絡するはに」
「ありがと」
「……ボーイッシュ系の当事者じゃないから言えることも、きっとあると思うお」
「ありがとね、みるき」
じゃ、と、***は通話を切った。
「安心して挑むために、学校の課題片付けないとね」
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