ATTRACTION

□夜に輝く貴方は
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 その後早速***は返事を送ると、***・みるき・はにたんの三者で、作戦会議の流れになった。
「どうするお……***ちゃんがあまね様より目立つには……」
「なんか俺より深刻じゃない?」
「デュオ売りのパートナーが上手くアピールできなかったら、巡り巡ってみるきの評判にも関わるから心配してるだけだおっ」
「はいはい」
みるきがこう言うのは事実を表しつつも、その実***のことを心配しているのは今までのやりとりで分かっているため、軽く受け流す。
「とはいえ、まだ何も分からないから対策のしようもないはに」
「そうなんだよねぇ……。とりあえず、着れそうなコーデの確認でもしとく?」
それを聞いて、はにたんはコーデブックを出現させた。
「『マナマナ』」
青いコーデブックを開くと、今まで***が集めた色とりどりのコーデが並んでいる。
「まーそんなにないんだけどね」
「そお?」
「ボーイッシュくくりってことは、やっぱりパンツスタイルの方がいいだろうし。そうなってくると、意外とバリエーションないんだよね」
「でも今の***にはエターナルシュガーがあるはに」
「ね! 俺のお気に入りのコーデ……」
 似合うコーデの幅が狭い***は、今まで『これだ』というコーデに出会えていなかった。そんな中出現したのが、エターナルシュガーコーデだった。自他共に評判が良く、手に入れて以来、マジスタのアイコンに使っているのもエターナルシュガーを着た画像だ。
「でも複数人集まって、ってなるとどうなんだろ? 結構派手だから、全員が統一するとかじゃないとバランスあれじゃない? もしくは同じ型のチェリーレヴューを混ぜるとか……」
そう言いながらみるきを見ると、明らかに不機嫌な顔をしている。チェリーレヴューはみるきもモデルとなって大々的に発表されたコーデだ。勿論、***とみるきでエターナルシュガーとチェリーレヴューを着てデュオをしたこともあり、その時の反響もまた凄まじかった。他人から見ても、自分達から見ても大事なコーデ。それがエターナルシュガーとチェリーレヴューだ。
「……うん、やめとこ。持ってないプリマジスタも多いだろうしね」
***はそのみるきの不機嫌な表情が、たまらなく愛おしかった。
「複数人で着るってなると、やっぱりマーチング?」
「だと思うお」
「フライングスカイは全然持ってないのがな〜」
「そこは普通にホワイトぐらい揃えとけお」
「だって俺あのタイプの全身白似合わないんだもん……」
 ワチャワチャと答えのない議論を交わしていると、DMの返事が来た。数時間かけて、色々な組み合わせで何回かプリマジをするらしい。要はコンサートのような形だ。いくつかデュオやトリオのプリマジをした後、最後に5人でのプリマジをする予定となっている。詳しいスケジュールは数日後、プリズムストーン内の会議室を使って決めるそうだ。
「なるほどなぁ」
 みるきとはにたんが両隣から覗き込んでくる中、内容を把握した***は一言呟いた。
「5人のプリマジならマーチングは確定だと思った方がよさそうはに」
「だね。ちょうど今パンツスタイルは5種類出てるし」
「どのカラー着るお?」
「どうしよっかな? 他の人の手持ちとの兼ね合いがあるだろうけど、俺が持ってるのはパープルとブルーにじゅんぱく……」
「ミクコにするならともかく、***にじゅんぱくのフルコーデは似合わないはに」
「やっぱダメかな〜? 白はみるきのテーマカラーだから、俺としては着たさあるんだけど……」
「そっ、そんなこだわりじゃなくて、ちゃんと自分をアピールできるコーデで考えるお!」
「えっへへ」
みるきは叱りながらも、色素の薄い顔がほんのり朱に染まっている。
「じゃ、パープルかブルーか。そういやブルーはまだ着たことないや」
「着ろお」
「今日のプリマジで披露するはに?」
「みんながまたすぐに見ることになったらいけないから、試着だけしとこうかな」
「じゃあ今日は予定してたコーデでやるはに」
 その後も、ああでもないこうでもないと、三者の議論は続いた。結果として、『あまねとは異なるかっこよさに磨きをかけていく』という、ふんわりした目標だけ決まった。

 そして、数日後。
 学校帰り、***はプリズムストーンへ向かった。一番手前の会議室に入ると、三人の出演者が揃っていた。
「こんにちは〜……」
時間的に『こんばんは』の方が正しいかもしれない、とうっすら思いながら、***は控えめに挨拶をする。
「こんにちは!」
今回のイベントを計画したプリマジスタを筆頭に、各自テンションの差はあれど、挨拶や礼が返ってくる。***は失礼でない程度に、メンバーを見回した。
 集められたプリマジスタ達は、***も知っている実力派の中堅から、明らかに緊張している新人まで、かなり幅広かった。またそれはビジュアルに関しても同じで、元気系、クール系、ストリート風……髪も長短様々で、場はボーイッシュの見本市のようになっていた。
 ***を含めて、部屋にいるのは四人。提示された時刻まであと数分。そして──丁度長針が12を指す瞬間、最も待たれていた人物が簡素な扉を開いた。
「こんばんは。おや、私が最後のようですね」
「あっ、あまね様! 気にしないでください! 今時間なんで!」
 場を支配する落ち着いた低音。美しい白の制服に身を包んだ、すらりとした長身。高潔、という言葉が脳裏に浮かんだ。
 そんなあまねの後ろから、桃色の肌につぶらな目のマスコットがふよふよと現れる。
「わたすのせいですだ〜……もっと余裕を持って時間を計算していれば……」
「いいんですよ、ぱたのさん。間に合いましたから」
あまねのパートナーであるぱたのだ。その素朴で親しみやすい雰囲気に、***は思わず考える。
(あの子、人間の姿ならかなりかわいいだろうな……いやあまね先輩のマナマナであることを思うと商売敵になるのか?)
ぱたのは小さなハットとオーバーオールを纏っている。もしかすると、少年風のボーイッシュな姿になるかもしれない。そうなると、***と属性が被ってしまう。
 ***が考えているうちに、会議が始まっていく。
「はい、ということで、まずはお集まりいただきありがとうございます! 企画に参加してもらえて嬉しいです! せっかくなんで、自己紹介からいきましょう!」
 そうして、プリマジスタ達は慣れた様子で名乗っていく。***もまた、そうだった。
「***です! こんな大型のイベントに呼んでもらえて、ほんと嬉しいです! 至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします!」
雑すぎず、堅すぎない加減で頭を下げた。
 最後に、あまねが立ち上がる。
「あまねです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
胸に手を当て、軽く頭を下げる。それだけの動作で、場が圧倒された。
(会議室も自分のステージかよ……)
「じゃあまずは、お伝えしたように最後に5人のプリマジをしようと思ってるんですけど、それまでにやるプリマジの組み合わせの案をもらえればと思います! 2人か3人の組み合わせで、やりたい案ある人っていますか?」
 発案者の少女が呼びかけると、一時沈黙が場を覆った。しかし、それほど経たずに、ストリート風の少女が口を開く。
「あたしは××さんとデュオがやりたい。いいよね?」
「……了承してやろう」
ストリート風の少女が目を向けた先で、クールな少女がぽつりと返した。
「あたしらよくデュオやってるからさ、最初に場を温める役は任せてよ」
「ありがとうございます……!」
 先鋒が決まったことで、***もその流れに乗る。
「じゃあじゃあ! 先輩っ、私とも一緒にプリマジしてくれませんか? ね、3人で一緒にやろうよ!」
 発案者も巻き込んで、やや強引かもしれなかったが、***は肩を組んだ。
「あは! いいよ、先輩が面倒見ちゃる!」
***の狙い通り、ストリート風の少女の懐に潜り込めた。
(問題は……あとのメンツかな)
 笑顔を崩さぬまま、座った状態の二者を見る。どちらも癖者だ。だが、『ここでアタックしないのは俺じゃない』という意識が***の中にあった。
「あ、あまね様はどうですか?」
***に肩を組まれたまま、発案者の少女がおずおずと問う。あまねは、ぱたのを抱いた状態で、どこまでも平常の様子だ。
 ふいに、その花びらのような唇が開いた。
「私は、***さんとデュオをしたいです」
「えっ」
「!?」
***の口から、丸っきり演技のない声が漏れる。そして他の3人も、心底予想外といった表情を作った。
「な、なんで、ですか?」
こんなことを言ったら他の3人の反感を買うだろうか、なんて繊細な心遣いにも頭を回せず、***は反射的に訊いた。
「皆さんの最近のプリマジを拝見させていただきました。その中で、タキシードブラックを纏った***さんに、特に心惹かれたので」
「え……」
なんでよりにもよって俺なんだ、もっと実力のあるプリマジスタもいるのに。そう言って更に追求したかったが、そこまでしたら空気が悪くなることは明白だった。
 ***はすっかりあまねの波に呑まれて、組んでいた肩を下ろし、ただうろたえている。
「勿論、私とプリマジをしたいという方がいらっしゃるなら、お受けいたします」
 あまねはそう付け加えたが、***からすればなんのフォローにもなっていない。今、明確にあまねは***を特別扱いした。その事実は覆らない。
(刺される……)
どうせ刺されるなら自分で手を出した女の子に刺される方がよかった、と***はげんなりしながら思った。

 その日***は刺されることはなく、帰路についた。最終的には、発案者の少女もクールな少女もそれぞれデュオをすることになり、***の特異性は若干ながら薄れたように思われた。
「…………」
そう、思いたかった。
「本物の王子様のやりたいことは分かんねえよ……」
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