ATTRACTION

□fake!fake!@
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「なんっだおあの子……!」
 洗面台で開口一番、みるきは控えめに叫んだ。
「ちゃんと会話はできてるのにあの子の素が全く分かんないお……! もしかして私嫌われてる?」
「可能性はあるはに」
 ***と同じ方向性であると思われるひなも、トッププリマジスタらしくストイックな面が強い。だが、彼女の場合はそれが素顔であり、欠点もある程度見せている。あのジェニファーでさえ、年相応にはしゃいだり落ち込んだりする。だが***にはそれが一切無い。喋る言葉はまるでテンプレートそのもので、執着や落ち度などの『人間性』がまるで見えない。
「みるきに負けず劣らず作り込みがすごいはに」
「でもなんで、あんなに当たり障りのないことばっかり? いくらキャラ作るって言っても、引っかかるところがなきゃ人気も出ないお」
「なにか事情があるかもしれないはに」
「うーん……」
 みるきは鏡を見つめながら、顔をしかめて悩む。しかし一度ぎゅっと目を瞑ると、いつもの愛らしい表情に戻った。
「ここで悩んでても仕方ないお。プリマジの前に、しっかり***ちゃんに話つけとかないと」
 そして再びはにたんを抱きしめると、みるきはお手洗いの外へ歩く。
「そういえば、あの子のマナマナはどこはに?」

 同時刻。***は部屋に自分以外いなくなったことを確認して、大きく深呼吸した。
「はあ〜〜〜〜…………」
体をぐったり脱力させ、脚を広めに開く。
「あの子のぶりっ子凄かったな……もし素だったらちょっと怖い……」
 しんと静まった部屋の中で、***のわずかな衣擦れの音だけが響く。
(あ〜〜どうしたらいいんだろう……これからデュオしなきゃいけないんだけど、何言えばいいんだ……? 小学校からの友達以外とやったことないから、どうすればいいのか何もわかんね……)
 やみよには、自分よりも先にプリマジを始めた友達がいた。
(俺は……『かっこいい』でいきたいから、そういう感じでやればいいって分かってるんだけど……。みるきは前に真逆のタイプとデュオしてんだよね? いやでもあの子はあの子で俺とタイプ違ったしな……)
しかもその時にはみるきよりも、もう一人のプリマジスタの方がデュオに積極的だったらしい。
(それでエレメンツコーデもゲットしてんだもんな……。やる前から失望されてるまであるじゃんこれ)
『今回は捨てる』と判断されている可能性、それが***の頭によぎる。
(いや……、だったらむしろ好きなだけやってやろう。どっちも主張が強かったら調和しにくいけど、どっちかだけ強いならまだイケるはず)

 みるきが部屋に戻ると、今回着るコーデの実物をタントちゃんが持ってきてくれた。
 普段のプリマジはプリマジスタ本人が集めたコーデカードを使うが、こういった企画の場合、企画側がコーデを貸し出すことが多い。
 今回二人が着るコーデは、今の章の目玉の一つ、メモリージュエルアイシクルだ。
「写真で見るよりかわいいお♡」
「うん! キラキラしててみるきちゃんにすっごく似合いそう!」
「え〜? ちょっと大人っぽいからぁ、***ちゃんの方がきっと似合うお〜♡」
心にあるんだかないんだか分からない言葉をお互いにかけあう。
 リーダー的振る舞いのタントちゃんが言った。
「じゃあ、そろそろ準備に入ってちょうだい!」
「「は〜い」」
 メイクルームに入ると、二人の姿に魔法がかかっていく。魅力を際立たせるメイク。艶を増す髪。イヤリングやネイルなどの細部まで。
 そしてコーデブックを開いて、煌びやかなコーデを着せられていく。
「「完成(だお)!」」
ステージに立つための姿に変わった二人に、タントちゃんはパチパチパチパチ!と歓声を上げた。

 舞台裏。もうすぐそこに、光に満ちたステージがある。
 デュオプリマジはここから二手に分かれた後、ステージに上がる。
 本番前、ほんの少しだけの猶予。そして、二人以外はいない場所。みるきが強い口調で口を開いた。
「言っとくけど、みるきの足引っ張ったら許さないお。せめて、踏み台ぐらいにはなってもらうお?」
 先程までとはまるで違う目付き、態度。大きな丸い目を半目にして、***を半ば睨みつけている。
 一瞬沈黙が流れる。その対応を食らって、***は一度きょとんとした。──そして次の瞬間、大声で笑い出した。
「っはっはっはっはっは…………!!」
「なっ、何笑ってるお!?」
「いや、こんな漫画みたいな腹黒かわいい子いるんだなって……!」
「だっ、だからって、こんなこと言われて悔しいとか、」
 その時、***の視線も変わる。張り付いたような真っ直ぐさから、柔和で明るいものに。
「俺も、そういう感じだからさ」
「『俺』……?」
「さっ、行こっ! みんなが待ってる!」
「ちょちょっと待つお! どーゆーことだお!?」
「それは、俺がちゃんと踏み台になれたらね!」
駆け出す***につられるまま、みるきも光の方へ向かった。

 二人がステージへ飛び出すと、コーデ&レスポンスが始まる。***が張りのある声で先陣を切った。
「シューズ!」
「トップスぅ♡」
「ボトムス!」
「アクセぇ♡」
唐突な開幕だったが、掛け合いのタイミングはぴったりだ。
(変な状況になっちゃったけど……。こうなったらやるしかないお!)
正反対の声のワッチャコールが混ざり合う。だが不思議と、その明るさはどこか同じ色をしていた。
「「スリー、ツー、ワン、ワッチャ〜!」」
重なる声と共に、プリマジが始まった。

 それは、見事なステージだった。
 ***の鋭いステップが、美しくかっこよく花開く。みるきのたおやかな指先が、愛らしくかわいくふわりと舞う。
 真逆のパフォーマンスが、同じコーデだからこそ際立つ。***のかっこよさが、コーデの型の大人っぽさをアピールする。みるきのかわいさが、ジュエルの可憐さを教える。
 光があるところに影があり、影があるところに光があるように、お互いがお互いを引き立てあっていた。
 そしてイリュージョンの時がやってくる。
「はにはに〜!」
片方のドローンには、はにたんが乗っている。だがもう片方には誰も乗っていなかった。
(どういうことはに……?)
はにたんの疑問をそのままに、プリマジは進んでいく。***のドローンから、タントちゃんやタテジマと似ているが別物の合成音声が鳴る。
「マナマナ」
「マジパ」
「「チュッピ!」」
 何の問題もなく、イリュージョンは始まった。巨大なカードに乗って、二人のプリマジスタが出会う。
「デュオで!」
「叶える!」
「「夢コラボ〜!!」」
身長も肌の色も髪の色も全く違う二人は、並ぶと不思議と調和していた。

 音が止み、決めポーズと共に、プリマジが終わる。
 その瞬間、歓声が上がった。
 溢れ出るワッチャが暗い客席をまばゆく染めている。その量は、ついさっきまで表面的なやりとりをしていた者同士のデュオとは、まるで思えなかった。
「最高ーーーー!!」
「意外と組み合わせバッチリーー!!」
「新感覚で良すぎーーー!!!」
息の上がった二人に、黄色い声が染み入る。
「「…………」」
一度アイコンタクトすると、***が先に叫んだ。
「みんなーー! ありがとうーー! 今日のプリマジの様子や私達二人のインタビューを収録した雑誌は、◯月◯日発売だよーーー!」
「ぜぇ〜ったい、チェックしてほしいお〜〜!」
演技だけじゃない、心からの笑顔を浮かべて、みるきも声を張り上げた。

 魔法が解け私服に戻ると、***はすぐに帰ろうとした。
「んじゃ、オツカレッシター」
「おい、ちょっと待つお」
それを、はにたんを抱えたみるきが引き留める。
「な、なに? みるきちゃん……」
「しらばっくれてんじゃねーお」
「…………」
「あんなに良いプリマジしておいて……。踏み台どころの話じゃないお」
「だ……だったらさっきのはナシじゃない? だって『踏み台になれたら』って言ったし……」
「諦めが悪いお! こんなに好評で今後の交流を考えないほど、ファンの目を気にしないタイプなのかお?」
「…………」
***は汗を流して、目を逸らしている。だが、
「はにたんも訊きたいことがあるはに」
という追い討ちで、渋々口を開いた。
「……喋るしかないかぁ……。でも、ちょっと条件つけさせてほしい」
「なんだお?」
「完全に二人っきりになれる場所……カフェとかじゃない場所がいい」
「二人っきり……カラオケとかかお?」
「でも今月節約するって言ったはに」
「うっ……。じゃあ、仕方ないからみるきの家に来てもいいお」
「ありがとう!」
「日曜だし明日でいいお? どうせ暇でしょ」
「ひっ、暇じゃないやい! プリマジするし……」
「つまりそれ以外の時間は空いてるってことだお。2時ぐらいにプリズムストーンで待ち合わせね、そこからみるきの家に連れてくお」
「はーい……」
みるきに言いくるめられ、二人の予定は決まった。

 帰宅後、みるきは連絡方法の確認のため、マジスタの***のアカウントを探した。フォローすると、間を置かずフォローが返ってきた。
「***ちゃん……。みるきのために、たっぷり利用させてもらうお」
すぐそばに座るはにたんが、その様子をのんびりと眺めていた。
(この出会い……これからどうなっていくか、楽しみはに)
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