小ネタ・短編

□小ネタ6
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9P:ベクターとハロウィンケーキ
帰り道にある、おいしいケーキの洋菓子屋さん。ハロウィンが近い今、彼を想わせる色で飾られた店内は、なんだかいつもより楽しそうでーーーー

「…で、買ってきたと」
ソファの上で肘枕をして涅槃スタイルのベクター様が、テーブルの上の白い箱を見て冷ややかな声で言った。
「はいぃ…」
「テメェまた金払って太ろうってのか」
「すみませぇん…」
ベクター様の軽蔑する目がつらい。でも目的の半分はケーキを食べるベクター様を見ることなので、なんと言われようとケーキは出す。円柱状の、つややかな黒いチョコレートに包まれたそれには、砂糖でできた紫色の魔女の帽子とチョコプレートのコウモリがちょこんと乗っかっていた。ベクター様がフォークをとる。銀色の突き匙が漆黒に突き刺さる。すると中からあたたかな橙のムースと、ココア色のスポンジが現れた。ベクター様が口に運ぶ。せめてお気に召したら許してもらえるかも…と打算めいた思いを抱きながら、ベクター様がもぐもぐしている姿を見る。
「…悪くねぇ」
表情はそのまま、トーンも決して明るくはなかったけど、確かにご主人様は気に入ってくださったらしい。私もワクワクしながら一口食べる。
「おいしい〜〜〜!」
ほろ苦いチョコレートと、自然な酸っぱさと甘さが爽やかなオレンジ。そのコントラストは見た目にも味にも鮮やかだった。
オレンジの髪、紫の瞳、黒い服のベクター様が、同じ色のケーキを食べている。
(共食い…)
今の状況にその言葉が浮かんで、思わずちょっと笑ってしまった。
「なんだよ」
「買ってきて良かったな、と思って
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