ATTRACTION

□fake!fake!B
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 ある土曜日の午前、オメガ・コーポレーションに訪れる者がいた。
 中学生と思しき少女。女性としては少し高めの上背。大人っぽく着こなしたミックスコーデ。
「先日連絡した者です」
「伝え聞いております。あちらのエレベーターをご利用ください」
少女はスムーズに受付を済ませて礼をすると、エレベーターに乗り込む。そして、迷いなく向かう先のボタンを押した。
 AI音声が到着を告げると、扉が開く。そこには、忙しなく手を動かす同年代の少女がいた。
 ショートカットでブルーグリーンの髪。つぶらな赤い瞳は、そう設定されたかのように、真っ直ぐ宙に浮かぶディスプレイを見つめている。
「やっほ」
到着した少女が声をかける。すると、緑髪の少女は手を動かしながら、短く言った。
「メールでよかったのに」
その声は、表面的には機械的に聞こえる。だが意識を深く向ければ、相手を思いやるための、複雑な感情の機微が含まれていることが分かる。
「まあまあ、こういうのは対面で言うのが大事だから」
訪れた少女は、こちらを向かない緑髪の少女を気にせず、すぐ隣までやってくる。
「根詰めすぎてない? 大丈夫? あうるちゃん」
緑髪の少女──御芽河あうる。オメガ・コーポレーションを大きく支える本物の天才であり、プリマジスタだ。
「僕は大丈夫。何かあればめが姉ぇが感知する」
隣に控えるのは赤い眼鏡に明るいブルーグリーンのスーツの女性。彼女は『めが姉ぇ』、あうるが創り出したアンドロイドだ。
「何かしてほしいことってある? 大抵のことはやるよ?」
「今は特に無い」
必要最低限の言葉を返すあうる。
「してほしいことができたら、連絡する」
「そっか。待ってるね」
「それよりも、何かあったらまた僕を頼ってほしい。新しい需要は、新しい研究に繋がるから」
「頼もしいな、ありがとう。じゃあまた今度、改めてお礼させてね」
そう言って、訪れた少女は来た道を戻っていく。
 下の階を示すボタンを押し、エレベーターを呼ぶ。少女は振り返ると、あうるに向かって手を振った。
「またね」
 あうるも、手を振り返した。
「またね、***」
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