ATTRACTION

□fake!fake!A
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 日曜日の朝、***は平穏に目を覚ました。
 カーテン越しの朝日が明るい。スマホをタップすると、時刻は9時半過ぎ。いつも通りの休日の生活リズムだ。
 トイレを済ませ、洗面所で口をゆすぐと、スマホを見ながら朝食を摂る。メニューは基本、適当な菓子パンだ。マジスタを開くと、昨日のプリマジの報告に大量の『いいね』がついている。コメントもいつもより多い。
「…………」
寝起きでぼやけた表情ながら、***の口角が上がった。
 奇しくもその日食べたのは、メロンホイップクリームを挟んだパンだった。

 そのあと動画サイトを見たり友達とメッセージをやりとりしたり昼食を食べたりしていると、すぐに出発の時間になった。
 玄関に向かう***に、母親が問いかける。
「今日はどこ行くの?」
「えーっと……友達?の家」
「なんで疑問形?」
「昨日の仕事で知り合った子だから」
「ふーん……気を付けていってらっしゃい」
「いってきまーす」
普段通りの会話をして、***は家を出た。

 予定の時刻の1分前にプリズムストーンに着くと、既にみるきがはにたんと共に待っていた。
「遅いお」
「いや待ち合わせ2時だし」
「みるきを待たせた時点で遅れたも同然だお」
「理不尽だなぁ……」
***は困った顔をするが、それ以上何も言わない。
「じゃあ着いてくるお。みるきの家に来れることを光栄に思うお」
「はいはい」
 そうして連れ立って歩き出す。みるきはワンダーチェリーフリルコーデを、***はショルダーフリルとジッパーラインスカートを組み合わせたコーデを着ている。
 それほど歩かず、昔ながらの八百屋の前に着いた。
「……ここ?」
「何だお、悪いかお?」
「そんなこと言ってないって」
ずかずかと奥へ歩いていくみるきを横目に、***は店主の男性に気付く。
(多分みるきのお父さんなんだろうな)
すると即座に最高の笑顔を作り、明るく挨拶した。
「お邪魔します!」
その変わりように、みるきは冷ややかな視線を向けた。
 みるきの部屋は整頓され、かわいくコーディネートされている。
 その部屋の中央に、みるきは堂々と体育座りした。
「じゃ、早速***ちゃんの素について話すお」
***は一応畏まりながらも、胡座をかいた。
「……どんなこと言っても、引かないでよ」
「内容によるお」
「うん……まあ、引いたら関係解消すればいいよ。他の人にはバラさないでほしいけど」
 ***は一度目を閉じると、開眼と共に打ち明けた。
「俺……すっごい女の子にモテたいんだ」
「……はぁ?」
みるきは困惑と呆れの声を上げる。
「俺は女の子にモテたくてプリマジをやってるんだ! そのためにかっこいいプリマジスタになりたいんだ!」
「ちょっと待って、つまり***ちゃんは女の子が好きなの?」
「うん大好き!! あらゆる女の子が!!」
「…………」
みるきが己の身を抱きながら、すすす……と***から遠ざかる。***は冷めながら付け加えた。
「あ……俺のこと好きになる可能性がない子には興味ないよ。彼氏持ちとか」
それを聞いて、みるきは一旦元通りの体勢になる。
「こんな感じ! 引いた?」
「正直ドン引きだお……」
「だよね……」
 珍しく、***がしょんぼりと肩を落とす。
「つまり、そういう本性をバラさないために、表向きにはいつも演技してるんだお?」
「そういうこと! 優しくて理解ある感じ出すと、女の子ってみんな喜んでくれるんだよね!」
「うわぁ……。それ、もしかして学校でもやってるお?」
「当たり前じゃん」
「……うわぁ…………。そんなんでモテて楽しいお?」
「その言葉そっくりそのまま返したいんだけど」
 二人の間に、はにたんがぽてぽてと歩いてきた。
「じゃあ次は、はにたんの質問はに」
「うん、いいよ」
「マナマナはどうしたはに?」
「……….」
「確かに……」
 昨日のプリマジで、***にカードを投げたのは無人のドローンだった。プリマジスタには必ずパートナーのマナマナが存在する。プリマジスタになる際に、相性を踏まえてマッチングするのだ。
「俺のマナマナは……俺に失望して離れていったよ。ある日ぽろっと本性を出しちゃって……、取り繕っても遅くて。そのまま、俺はパートナーを失った。今は一時的に、オメガコーポレーションから簡易版人工マナマナを貸してもらってる」
「なるほどはに」
はにたんが頷く。
「なら、はにたんが面倒みてやるはに」
「は!?」
「えっ!」
 はにたんの申し出に、二人が驚愕した。***の瞳がキラキラと期待に輝く。
「い、いいの?」
「一応、一時的に、って扱いはに」
「俺、こんなだよ?」
「プリマジスタとしてちゃんとしてれば、性格は関係ないはに。みるきが良い例はに」
「ちょ、ちょっと!! 私はどうなるお!?」
「もちろん、みるきも今まで通り担当するはに」
はにたんはみるきの膝の上に乗ると、耳元でこっそり囁いた。
「昨日のワッチャを見たはに? ここで恩を売っておけば、この子とのデュオ売りをやりやすくなるはに」
「たしかにそうだお……」
 そうして、はにたんとみるきは***の方を向く。
「じゃあ、これからよろしくはに」
「うん、よろしく!」
はにたんのぬいぐるみのような手を、***が優しく握った。
「早速だけど、***ちゃんは直さなきゃいけないところがあるお」
「え? どこ?」
 みるきは手元のスマホを手早く操作すると、***のマジスタアカウントを表示して見せた。
「ここ! ***ちゃんのマジスタは文が平坦すぎるお!」
「え〜〜? そう……?」
「そう!! 文がありきたりすぎて、こんなんじゃ誰にも引っかからないお!」
「確かにな〜〜……うすうす思ってはいたよ。でも誰が見ても好印象な文って、そんなんじゃない?」
「たしかに、そういう観点ではこういう文になるのも、理屈は分かるお。だけど! ファンっていうのは、推しの親しみやすい一面とか、意外なところに惹かれるもんだお。参考に私の投稿を見てみるお」
「『テスト前だから今日はお勉強ଘ(੭ˊ꒳ ˋ)੭✧ ねむたくならないようにブラックコーヒーにチャレンジしたけど、やっぱりみるくとおさとうた〜っぷりじゃないとのめないお🥺』 ……これのどこに親しみやすさが?」
添付された画像には、ほとんど白色のカフェオレが写っている。
「全部だお! コメント欄見れば分かるように、『みるきちゃんもテスト前なんだ! 私も勉強がんばる💪』とか『ブラックコーヒー飲めないのかわいいね😘』とか! みんなこういうところに惹かれるんだお!」
「ふーん……おっ! これとかいいじゃん! 『本当においしいふろふき大根の作り方の紹介』! 実用的だし!」
「ちょっ、特に地味なレシピの回出してくるんじゃねーお!」
「あっはは……! ……はあ、難しいなー。俺が目指す理想像からすると、あんまり弱点みたいなとこは見せたくないし。かといって、料理とか得意なものも、これといってないし」
「本当に何にもないお? 好きなものの一つぐらいはあるでしょ?」
「女の子」
「うえっ」
「……それ以外は本当にないよ。趣味らしい趣味も、習い事も特にやってないから」
「じゃあ、作るお」
「作る?」
 みるきは眉尻を上げ、少し強気な顔をする。
「プリマジスタとしてもっと人気になりたいなら、そのための努力は必須だお!」
「でも何からどうすれば……」
「仕方ないなぁ、特別に! ちょっとだけみるきが考える手伝いをしてあげるお」
そう言うとみるきは、***のマジスタアカウントの記録を遡り始めた。その様子を、***はやや弱気な表情で見つめている。
「よく見ると、結構ミックスコーデコンテストには参加してるお?」
「ああ、寄せ集めのコーデでもワッチャが出やすいからね」
「よし、じゃあこれを極めるお」
「えっ!?」
「ミックスコーデは誰もが通る道。それを中心に発信していけば、同じプリマジスタからの人気も見込めるんじゃないかお?」
「たしかにそうだけど……。着こなしをアピールしていくとなるとさ、『あの』オシャレ番長と張り合うことにならない?」
「うーん、そうかもしれないお」
「やだよ! ただでさえひな先輩とはキャラが被ってるのに! あんなトップオブトップとはやりあいたくないって!」
「なーに弱気になってるお! ***ちゃんの『モテたい』気持ちはそんなもんだお?」
「…………」
下からみるきに叱られて、***は眉を大きく下げる。
 気付くと、はにたんもみるきのスマホを覗き込んで、***のマジスタを見ている。
「たしかに、結構悪くないミクコはに〜。ひなとの被りが怖いなら、考え方を変えるはに。***は髪型も、髪色も、目の色も、ひなとはぜんぜん違うはに。なら、絶対に別の需要があるはに」
「そうそう! それに、ひな先輩にはない、1年目だからこそのフレッシュさがあるお! 新人の一生懸命さは、それだけであざといお♡」
「はにたん……みるき……」
「じゃあ、早速ミックスコーデを考えるお」
「そのあとは早めにプリズムストーンに行って、はにたんが***の担当を兼ねる手続きをするはに」

 そして、しばらく時間が流れた。
 みるきの部屋のカーペットにコーデカードを並べて、***が神妙な顔付きでみるきを見る。
「ど……どうかな?」
「うーん……いまいち」
「え〜〜」
縦に4つ並べられたカードの周りには、他にもコーデカードが散乱している。
「やっぱりトップスとボトムスを別にしないとミックスした感じがないお」
「でもコンテストみたいにお題があるわけじゃないから、どういうコンセプトにすればいいのか分かんないんだもぉ〜〜ん」
「そこは! ***ちゃんに最高に似合うコーデを考えるつもりでやるお!」
「言ってもな〜〜……。正直俺、始めた時期的に似合うコーデあんま持ってないし。手持ちですごい合うのってこれ系だけじゃない?」
「確かに、一理あるお……。」
「だからさぁ、やっぱりこれをメインにするのは変えられなくない?」
「そうすると、個性を出すのが難しくなるお。***ちゃんの見た目なら……」
2人はいつの間にか、すっかりミックスコーデの作成にのめり込んでいた。
(みるきにも良い影響が出てるはに)
 さらにしばらくして、ようやく結論が出た。
「できた! ……結局最初に作ったのに戻ってきた……」
「***ちゃん持ってるコーデ少ないお……」
「しょうがないじゃんかよー……」
2人はがっくりと肩を落とし、精神的には疲労困憊といった感じだ。
 半ば眠っていたはにたんがぽてぽてと歩いてくる。
「よくやったはに。今日のプリマジはこれでやるはに」
「うん! 昨日のプリマジで注目度上がってるだろうからね! 俺のかっこよさをアピールしないと!」
パチンッと***は見事にウインクしてみせた。
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